第23話 夏休み中の部活動

 夏休み中でも部活動はある。文芸部だが学校に来て部活をする。

 活動内容は普段となんら変わりはないし、部としてやる事はない。

 まぁ、個人では文化祭の作品作りをする必要があるのだが・・・進展はあんまりない。

 なんとか書き始めているが進捗はかんばしくない。


 どうしようかと考えながら、クーラーの効いた涼しい部屋で外の運動部を眺める。

 部長さんは今日は休み。美琴さんもまだ部室には来ていない。まぁ、僕が早く来てしまっただけだから仕方がないか。


「暑そうだな」


 外で走っている陸上部を見る。

 涼しい部屋で、呑気のんきに座っている僕とは大違いだ。なんだか少しだけ悪い事をしている気分になる。

 かと言って走れと言われたら嫌なんだけどね。


 そんな事を考えていると、廊下を勢いよく走る音が聞こえてくる。

 ああ、またか。と思いながらも、僕は気にしないことにする。


 足音はだんだんと近づいてきて、ピタッとこの部室の前で止まる。

 そして、勢いよく扉が開かれた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、やぁ、空くん!元気!!はぁ、私は元気だよ!!」

「・・・・・・?」


 息切れしながらも、とても元気に挨拶をする美琴さん。

 美琴さんは息は切らしているが、勢いよく走っていたし元気なのは見てわかる。


「はぁ、はぁ、はぁ、ちょっと待ってね。水、飲ませて」


 美琴さんは手に持っていた水を飲み始めた。

 いや、なんでこの人は水持って走ってきているんだ?

 しかし、僕は気になる事はそんなところではない。もっと別の異常な事があった。

 そこに気を取られて、挨拶をする事も忘れてしまう。


「あれ?どうしたの空くん?なんか驚いた顔してるけど、私の登場がそこまで衝撃的だった?」


 登場はいつも通りだ。廊下から響く足音で、彼女が来たことはすぐにわかる。

 僕が気になっているのはそんな事ではない。


 僕はじっと美琴さんを見る。


「あの、美琴さん」

「んー何かな!!」

「どうしたんですか、その格好?」

「・・・格好?」


 そう、僕が気にしていたのは美琴さんの姿、服だ。

 学校には制服で来る事が義務付けられている。夏休み中の部活動でも例外でない。

 まぁ、割とゆるいところでもあるので外側に制服着てれば中はどんな服でもいいが。


 しかし、美琴さんの格好はどう見たっておかしい。制服っぽい服を着てはいるが、なんのアニメだろう?と思うデザインだ。少なくとも、うちの制服ではない。

 どうしたのだろうか?


「あー、これかー!!どう?似合ってるかな?」


 美琴さんはその場でくるりと回り、ひらりと黒いスカートが少し舞った。

 まぁ、似合ってはいる。美琴さんは性格はアレだが、容姿が整っているし、スタイルもいいのだ。


「で、どうしたんですか?」

「えー、感想はー、ねぇ、感想!」


 誤魔化して答えないようにしたのに、さらに聞いてきた。

 はぁ、ここは答えないとよりめんどくさそうだから素直に答えよう。


「似合ってますよ」

「ほんと!!いやー、いいね!あ、一緒に写真撮る?」

「それは、遠慮しときます」

「そっか、空くんも同じ服着たいもんね!」

「いや、そういう事じゃありません。てか、その服はどうしたんですか?」


 なんか僕も着させられそうになっているが、僕は着ないぞ。

 ともかく僕は美琴さんの格好の謎を早く知りたいのだ。


「それはねー・・・・・・」


 美琴さんが言おうとしていたその時、部室の扉が開かれた。


「はぁ、はぁ、ちょっと美琴!!速い!まだ、完成してないからそれ!!はぁ、はぁ、それといきなり走らないでよー」


 そこには、肩で息をしている疲れ切った糸さんがいた。

 糸さんはちゃんとうちの高校の制服を着ている。


「あ、糸ごめんね!!ちょっと思いついちゃって!」

「思いついちゃって、じゃない!変なシワとかついたらどうすんの!ほら、こっち来て!あ、後輩くん、ごめんね。美琴ちょっと連行するね」

「どうぞ、持ってってください」

「えっ、空くん!ちょっと!連行って!あ、まってー」

「じゃあね後輩くんー、また遊ぼうねー」


 ひらひらと手を振りながら糸さんは、美琴さんを連れて部室から出ていった。

 まぁ、経緯はなんとなくわかったかな。

 とりあえず僕は、部室で本を読みながら美琴さんを待つ事にした。


 待つ事20分、再び扉が開かれた。


「ただいま、空くん!!もう、大変な目にあったよ!!」

「お帰りなさい。美琴さんの自業自得なのでは?」

「まぁ、そうなんだけどさー」


 あ、やっぱりそうなんだ。予想で言っただけだが、当たっていたみたいだ。

 美琴さんが何かをやらかしていたらしい。


「いやー、今日ね、糸にコスプレしてくれーって頼まれててさ!」


 糸さんもこの人に頼むとはなかなかである。まぁ、いつも通り仲がいいようで素晴らしい事?なのかもしれない。


「糸も手芸部で文化祭の準備をしてるんだよねー!!私はその手伝いしてたわけだよ!!」

「なるほど、そう言った経緯でしたか」


 手芸部も文化部なので、文化祭での発表のようなものがあるのだろう。衣装を作るとかなのだろうか?


「その服があの服って訳だよ!!魔法学園の制服だって!で、その途中で面白い事を思いついて、部室まで来たんだよ!!」


 美琴さんが全部説明してくれたおかげで、美琴さんが急いで部室へと来た理由が分かった。


 てか、借り物の衣装で走るとかすごいなこの人。

 ちょっと僕は戦慄せんりつしている。


「よし!勢いで部活を始めよう!!」

「え、まぁいいですけど」


 唐突に部活動が始まるみたいだ。

 僕は本に栞を挟み、机に置いた。

 美琴さんはホワイトボードを持ってきて、ペンを構える。


「さぁ、部活動を始めよう!今日は久しぶりの異世界学をやろうか!!」

「異世界学ですか」


 美琴さんが言うようように久しぶりな気がする。基本は美琴さんの思いつきで話をしているから、時間が空くのは仕方がないかとも思う。


 僕は『異世界学』と書かれている記録ノートを広げる。

 前から僕もいろんな本を読んできたと思う。それこそ、美琴さんがオススメする異世界小説なんかも読んだ。

 だからこそ、前よりも考えが出せると思う。


 なんだか久しぶりで、僕もやる気があるのかもしれない。それか、文化祭の作品作りが進まないから、何かとっかかりが欲しいだけなのかもしれない。


 まぁ、いい。ともかくこの活動はなかなかに楽しいと言う事だ。


「よし、じゃあ楽しんで行こうか!!」

「はい」


 美琴さんの掛け声と共に部活動が始まった。

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