シャボン玉とんだ……
山村久幸
幸せだったあの日……
「ご兄弟などに何か言い残すことはありますか?」
「兄弟たちには言い残すことはありませんが……。いえ、一つありました。私の骨は
「シャボン玉ですか?」
「ええ。娘の
「詳しくお聞かせ願えますか?」
「ええ。手短にですが」
とある雪の降る日の朝。東京拘置所の
これから始まるのはとある死刑囚の回想である。それはそれは幸せだった日々の……。
「わあっ! おおきいシャボン玉! きれーい!」
「ははっ! 真雪! やってみるか?」
「うん! ママー! かしてー!」
「真雪ちゃん。ちゃんと持ってね? 吸い込まないようにね?」
「うん!」
ある晴れた春ののどかな日曜日。東京郊外の一軒家の庭ではほのぼのとした光景が繰り広げられていた。
父親が娘の前でシャボン玉を作ってみせると5つの娘は自分もやってみたいとせがむ。そして、それを笑顔で見守る母親。
どこにでもある幸せいっぱいの一コマだ。
父親は
そして、1年もしないうちに娘が生まれた。それは東京でも雪が降り積もるほどの寒い夜のことであった。
「真雪? こんな歌があるんだよ?」
「あ! 崇人。もしかして、あれ?」
「あれだな? 美咲も一緒に歌うか?」
「そうね」
「しゃーぼんだーまとーんだー。やーねーまーでーとーんだー。やーねーまーでとーんでー。こーわーれーてーきーえーたー。かーぜかーぜふーくーなー。しゃーぼんだーまーとーばそー」
「お! 真雪! よくできたなー! きれいにシャボン玉が飛んでいったぞ?」
崇人と美咲が一緒に奏でるハーモニー。それに真雪は目をキラキラさせていた。
これは本当に幸せだった日々の一コマ……。
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