第58話 ぼるけ~の

 カッカッカッカッ…

 子気味いい音を出してレンゲで炒飯を書き込む田中さんとは対照的な、面倒くさい面々は…。

「まぁ、この炒飯、油が多すぎじゃありません? 女性目線からすると気になりますわ」

「そうね、明らかに男性を意識した仕上がりになっているようね」

「冬香、コショウ掛けるです‼ 青海、コショウを取るのです」

 青海がコショウを冬香に渡すと、ガバッガバッと勢いよく炒飯に掛けだす冬華。

「おぅ…いいんだけどよ、灰色で砂山みてぇになってねぇか? チッコイ先輩?」

 黄金色の炒飯をアッという間にグレーな禿山に変えた冬華。

「コレくらいが丁度い良いのです‼……グホッ‼」

 一口食べた瞬間にコショウで咽た。

「青海‼ 男なら根性を見せるのです‼」

 そういうと青海の炒飯を奪い取る冬華。

「マジか…コレを超えねぇとならねぇのか…」

 目の前に置かれただけで目がシパシパしてくる灰色の炒飯を前に恐れおののく青海。

「フッ…食わねぇなら、俺が頂くぜ‼」

 夏男が灰色の炒飯を青海の前から奪いとった。

「待てやコラ‼ ……いや…問題ねぇ」

 一瞬ムカチャッカファイヤーした青海だったが、この交換条件にデメリットはないと即座に判断した。

「フフッ…冬華ちゃんが食べかけた…フフッ…それこそ至高の調味料‼ ……口内で愛を奏でろ‼フゴォ‼」

「バカは死ななきゃ治らん…夏男よ…御飯一粒残すこと許さんぞ‼ ハッハハハハ」

「死んでもゾンビになるだけなんですけどね」

 小太郎がシレッと反す。

「ハハハッ…ん?じゃあ夏男は永遠に治らないじゃないか…ハハハッ傑作‼」

 秋季は高笑いしているが、そんな小太郎と秋季の会話なんざ聞いちゃいねぇ夏男。

「フゴォ…フガッ…フガッ…」

 舌を突き刺す冬華の愛を存分に感じていたのである。

「冬華の…愛…ですか? 追加するです‼ 冬華の愛とやらを‼」

 ラー油がトポトポと一瓶丸々追加された。

「じゃあ先生からも愛をどうぞ夏男くん」

 立花先生、七味を一瓶追加した。

「まるで、燃え尽きた禿山が噴火したような…食べ物ですね」

「あぁ…ボルケーノ炒飯だぜ…」

「まぁ困りましたわ…後、追加するものが見当たりませんわ…」

「春奈先輩…もう勘弁してやってください、夏男さん限界突破サバイバー状態です」

 顔が脂汗でヌメッとしている夏男、顔中、自身の阿野という穴からあふれ出す体液でテラテラにコーティングされていた。


 そんな面々を他所に無言で炒飯を食べる田中さんと向井くん。

「おかわり‼」

 コッチはコッチで大食い大会の様相を出していた。


 小太郎はふと思った。

(冬華と青海…いつ帰ってきたのだろう?)

 いつの間にか店内に戻っていた冬華と青海、よく見りゃコンビニの袋が足元に置かれていた。

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