『愚か者』は時を越えて

不皿雨鮮

『天才』はいない。

 昔々。

 六年前、俺こと萩之大輔が小学校を卒業する少し前の話、俺は大切な人を失った。

 俺には幼馴染の双子の姉妹がいた。

 水原裕果と水原愛果。『天才』と『秀才』の、二人だ。

 『天才』の裕果は何をさせても三百パーセント以上の成果を出し、『秀才』の愛果は何をさせても百二十パーセントの成果を出していた。

 裕果は零から数千を生み出すことができるし、愛果は一から数百を生み出すことができた。二人は常人から比べれば傑出した才能を持っているが、そんな二人の間にも明確な差があった。

 裕果は『天才』だった。愛果は『秀才』だった。――彼女達の才能に差はあれども、それは異常だった。

 両親さえも恐れ慄き、距離を取り、関わらないようにする程の絶対的な才能を持つ二人は、孤立していた。

 たった十二歳の少女二人は、夏休みの自由研究程度の緩い雰囲気で、技術的障壁を三つ取っ払って、世界を進歩させた。

 超電導。人工知能。重力制御。

 全く異なる分野の革新的技術の発明。ある学者が言うには、彼女達によって世界は千年程の技術のフライングをしてしまったらしい。

 当然、あっという間に『天才』姉妹だとマスメディアの餌食となり、だがそれらはすぐに撃沈することになった。

 彼女達の『天才』性はあまりにも凄まじく、そして恐ろしかった。二人の存在は多くの人の目に晒すモノではなかった。

 あんな人間がいてたまるか。どうせヤラセなのだろう。と人々はそう決めてかかり彼女達が出演した番組や雑誌は信用と信頼を全て失い、程なくして消えていった。

 あり得ない。存在してはならない。そう断定し断罪しなければならない程に、彼女達の『天才』性は異常だった。

 もっと簡単に言えば気味が悪かった。同じ人間だと受け入れ難い、そういう不気味さを人々は彼女達に抱いたのだ。

 俺は、どこかが壊れているのかもしれない。いや実はもっと単純で、気が付いた時から側にいて慣れているからというだけの理由なのかもしれない。

 ともかく。

 不気味で忌避するべきはずの彼女達に俺は憧れた。

 最初は無意味な対抗心だったが、すぐに絶対に勝てないと思い知らされ、そこからは尊敬と憧憬に変わった。

 カッコいいと思った。「ああ成りたい」と本気で思い、だから彼女達と共に居ることを選んだ。

 誰もが離れていく中、俺だけは裕果と愛果の側にいた。

 佑果と愛果は小学三年で研究室も兼ねた『家』を与えられ、俺は毎日のようにそこに通った。行く度に意味不明な発明が大成されていて、時折その発明品を貰っていた。

 そんな騒がしくも楽しい日々がずっと続くと思っていた。しかし、それは唐突に終わってしまう。

 『天才』の消失という修正によって。

 忽然と何の痕跡すら残さずに『天才』はこの世から消えてしまった。

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