過剰発注
工事帽
過剰発注
ある日、出勤すると、店の倉庫には大量の酒が積み上げられていた。
昨日までの倍ではきかない。一桁違う程の量が倉庫一杯に入っている。床が抜けないか心配になるほどだ。
「あのー、店長。これどうしたんすか」
「おお、来たか。おはよう。もちろん発注したんだよ」
帳簿を片手に数量の確認でもしていたのか。店長はとてもご機嫌だ。
「緊急事態宣言が解除されたからな。これからは街に客があふれるぞ。うちの売り上げも倍増だ!」
「えー、そんなことないと思うっすけど」
「なんだお前、ニュース読んでないのか。時短営業も解除だぞ」
「いや、それは知ってるっすけど」
「さあ、忙しくなるぞー」
そう言って、店長はご機嫌のまま倉庫を出て行く。
店長の言うとおりになるとはとても思えない。それでもバイトはバイトだ。制服に着替えて店に出なければいけないと、更衣室に向かう。
深夜一時。終電も終わった時間になっても、倉庫に積み上げられた大量の酒は、そのままの姿でそこにあった。
むしろ、昨日よりも客が少なかったことで、酒以外の他の商品にも売り残りが多い。
破棄する食品をまとめて、倉庫に足を踏み入れると店長が落ち込んでいた。
「なぜだ」
「そりゃそうっすよ」
不思議そうに見る店長に告げる。
「時短営業解除って、時間を気にせず飲めるってことっすよね」
「そうだな。だからこうやって大量に……」
「店長。うち、コンビニっす」
そうして続ける。
「飲み屋で飲めるなら、路上飲酒とかしませんって、寒いし」
店長の顔は真っ青だった。
過剰発注 工事帽 @gray
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