第514話 聖域では

ピシャーンッ!ピシャーンッ!!


〖⋯お母様〗

〖ええ。始まったみたいね〗

〖バートも動き出したようですね〗

聖域のサーヤたちが暮らす家の屋根の上、神様達が雷が降り注ぐ彼方の地を見ていた。


『あの方角は、私たちがいた方角よねぇ?とうとう神罰が下ったみたいねぇ。あのバカたち、何をやらかしたのぉ?』ふわっ


結葉様が気づき、やって来た。

もちろん、気づいたのは結葉様だけではない、聖域に暮らす大人たちで屋根は満員⋯


『すげぇ光景だな。あれが神罰か。本当にあのおっとりしたイル様がしているのか?』

『あらあらまあまあ、サーヤたちには見せられないわね』


ひっきりなしに、闇夜を切り裂く稲光に、今更ながら、神の力を思い知る。


〖主神はやる時はやるのよ。普段はあんなだけどね〗ツンっ

〖お母様はそんな所に惹かれて、あの手この手でお父様と夫婦になったと聞いてますからね〗

〖柱の影から〖あのギャップが⋯〗とかブツブツ言ってる姿は中々でしたからね〗

〖ななな、なんのことかしら!?わたわたしからじゃないわよ!?主神がっ〗

〖ああ、それは、あまりに気づかない鈍い主神に、痺れを切らした天界樹とバート、それに料理長たちがですね⋯〗


あ、あれ?話が面白い方に


『へ、へえ~』

『あらあらまあまあ、とってもとっても興味のあるお話だけど、今はちょっと違うかしら?』にこにこ


〖ハッ!そそそ、そうよね?凛の言う通り、今はそれどころじゃないのよ!〗

〖お母様、真っ赤ですね。でも、そうですね。失礼しました〗

〖そうですね。すみませんでした。この続きは後日〗


『あらあらまあまあ、それは是非聞かせてちょうだい』にこにこ

『私も私もぉ~絶対聞くわぁ』

みんな目がらんらん。特に女性陣が⋯


〖はい。必ず〗にっこり

〖しないわよ!?〗

〖お母様、諦めてください。ふっ〗

ジーニ様、真っ赤っか

エル様とシア様はいい笑顔です。



『ま、まあ、こんなとこじゃ何だからよ、神罰の話、子供たちに聞かせたくないなら家に来ねぇか』

『そうだね。サーヤちゃんたちは寝てる時間だから平気だとは思うけど、それでも心配なら、家なら聞かれることもないさね』

じぃじと、イヒカ様の背中に乗せてもらってきた親方とおかみさんが提案する。

『茶くらい出せるしね』


〖そ、そうね。お言葉に甘えましょうか〗

〖申し訳ないけど、フゥとクゥ、山桜桃と春陽には、残ってサーヤたちを見ていてもらっていいかしら?〗

〖そうですね。気になるでしょうが、後で必ずお話ししますから〗


神様たちが申し訳なさそうに言うと


『分かりました』

『サーヤたちのそばにいます』

素直に従うフゥとクゥに対し


『今、お茶の用意を』

『すぐにご用意しますね』

急いで動き出そうとする山桜桃と春陽


『いや、山桜桃、春陽、大丈夫だ。俺がやるから』

急いでお茶の用意をすると言い出した二人を、ゲンが大丈夫だからと落ち着かせる。


『『でも⋯』』

もはやワーカホリック気味な山桜桃と春陽が、申し訳なさそうな不安そうな顔をしていると


『山桜桃、春陽、大丈夫だ。うちにも茶と菓子はあるしな』

『今日の山桜桃ちゃんと、春陽くんの仕事は、ちびっこたちを見ていることだよ』

『フゥとクゥと一緒にな』

『頼んだよ』


『『は、はい!』』


さすが親方とおかみさん。うまく山桜桃ちゃんたちに、お仕事だと思わせることで落ち着かせました。

本当はこんな風にしなくても大丈夫になって欲しいのだけど⋯

人間にひどい扱いを受けていた頃の傷は、まだここに⋯


〖じゃあ、お願いね〗

『行ってくるな』


『みあも居てくれるそうだから、何かあったら呼んでちょうだい』

『任せる。すぐ呼ぶ』


『『はい』』

『『いってらっしゃいませ』』


まだ続く神罰の光を背に、それぞれが動き出した。



こと⋯

ドワーフさんたちの工房。テーブルの上には、心を落ち着かせるハーブティーが⋯


〖ふぅ⋯ありがとう。落ち着くわね〗


『ハーブが苦手なヤツでも比較的に飲みやすい、ジャスミンティーにレモンバームとか、心を穏やかにするハーブをブレンドしてみたんだよ。昼間ならミントを効かせてもいいかもな』


〖そう。ありがとう〗ふぅ

本当にゲンは、こういう時は気が聞いてるわね。


『それでぇ?何があったのぉ?』


『我は主神様が、地上のことに余程のことがない限り干渉しないことを知っている。神罰となれば尚のこと。あの規模ではエルフの大半は滅しただろう?いったい何があったのだ?』


結葉とアルコンが、早く話せとせっついてくる。まあ、無理もないわね。


〖お母様···〗すっ

シアが私を落ち着かせるように手を重ねてくれる。そうね。話さなければね。

〖···あいつらはね、同族狩りと、精霊狩りをしたのよ。ある鎧の力を手にして、ここに攻め入るためにね〗


『なんてことを⋯っ!』ガタッ

結葉の言葉遣いが変わったわね


〖結葉、落ち着いて〗


『でもっ!』

『『お母様⋯』』

アイナとリノが結葉を両側から支えてくれてるから、任せましょう


『落ち着け、結葉。とにかく話を聞くのだ。ジーニ様、鎧とは?精霊たちは無事か?それに、ここがなぜ分かったのだ?もしや、サーヤのことも?』


アルコンの疑問はここにいるみんなの疑問⋯


〖順を追って答えるから、落ち着いて〗


『ジーニ様』

『サーヤのことが?』

ゲンと凛、そんな泣きそうな顔をしないで


〖サーヤのことは気づかれてないと思うわ。占星術って分かるかしら?〗


『占星術?占いの一種だよな?』


〖そう。エルフの中でね、その占星術が出来る者がいて、聖域がどこかにあるというのを、薄々勘づいたらしいの〗


『薄々?じゃあ、聖域の場所とかは』


〖分かっていなかったと思うわ。恐らく、精霊樹を諦めてなかったのね。精霊樹を追う内に、聖域があるんじゃないかと気づいたみたい〗


チラッと結葉を見ると、テーブルの上に置かれた手が、きつく握りしめられていた。

両脇からアイナとリノが背中や腕をさすって上げてくれている。

ニャーニャは心配そうに握りしめられた手を撫でてくれてるわね。


『そうか。それじゃ、それだけの情報量で何で神罰が下るほどのことになったんだ?』


この世界を知らないゲンがそう思うのは当然ね。


〖師匠、あのバカどもは精霊や妖精を自分たちで見ることも出来なくなっていたのですよ。穢れすぎた魂を精霊や妖精は嫌いますからね〗

〖ですから、魔道具を使ったり、もしくは⋯〗

シアが言葉を詰まらせてしまったわね。分かるわ。


『もしくは?』


〖ゲン、エルフの中にも、まともなエルフはいるって、以前話したわね?〗


『ああ。聞いたな』


『⋯本来のエルフわねぇ、自然を敬い、自然と共に生き、精霊や妖精たちと共存してきた良い子たちなのよぉ』

『『お母様⋯』』


『結葉様、大丈夫か?』


『大丈夫よぉ。でもねぇ?いつの頃からか、自分たちを過信しすぎるモノが現れてねぇ、どんどん変わってしまったの。耐えられなくなったまともな子達は私の元に来てこう言ったわぁ。「自分たちが精霊様たちと意思疎通が出来ることを知られたら、精霊様たちを傷つけることになる。だから、自分たちはエルフの国を抜け出して、これからひっそりと暮らすことにする」って』


『そうだったのか』


『私はお守り代わりに精霊樹の枝をいくつか渡して、これを杖にして、姿と気配を消して逃げるように言ったわぁ。恐らく、その枝の数だけ分かれて集落が出来たんじゃないかしらぁ?』


『お母様、そのようなことまで』

『当時のお母様では、自らの力を削ぐような行為ではないですか』

『よくご無事でいてくれたにゃ』


アイナたちが泣き出しちゃったわね。私たちの責任でもあるわ。申し訳ないわね⋯


『でもぉ、あれから随分経ってるし、世代交代もしてるでしょう。そうなると、集落を飛び出る子だっているわよねぇ。付け込まれたのはそういう子たちじゃないかしらぁ?』


さすがね⋯


〖その通りよ。欲に駆られたエルフも入れば、うっかり漏らしてしまったような子もいるんでしょうけど、とにかく、隠れ里が襲われて、精霊と仲がいい子供が狙われたの。守ろうとしたエルフや精霊たちの中には、残念ながら亡くなった子たちもいるわ。助かりそうな子たちは今救出しているところよ〗


『子供と精霊を?どうしてそんな⋯』


『⋯「鎧」ですかのぉ』

『先程出てきた「鎧」に繋がるのではないですかの?』

流石ね。蒼と青磁はもしかしたら、その鎧の正体にも気づいているかもしれないわね。


〖その通りよ。かつていた「精霊の愛し子」の為に作られた特別な鎧〗


『『精霊の愛し子?』』

ゲンと凛は、サーヤ以外の愛し子を知らないからね


〖そう。かつて精霊の愛し子のために、何代も前のエルフの王と鍛治神が協力して作った鎧。その鎧を目覚めさせ、傀儡にする為に〗

本当に、本当に許せないけど、あいつらは



〖精霊とエルフの子を、⋯生贄にしたのよ〗



ひゅっ

みんなが、息を飲んだ⋯



☆。.:*・゜☆。.:*・゜

お読みいただきありがとうございます。シリアスまだ続きます⋯

御付き合い下さると嬉しいです。

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