楓&美鈴「顔面アハ画像系女子な親友が今日も可愛い」
楓が何やらホラーに興味を持っている。
鹿岡美鈴は、ここ数日それをひしひしと感じ取っていた。
何日か前の放課後、湊と伊織が教室でホラー動画の実況を見ていたことがあった。そのときから楓の様子がおかしい。まあ、それも可愛いのだけれど。
(どうしたもんかなー)
この子は中々の怖がりなのに、何かのきっかけがあるたびにホラーに興味を持ちがちなので困る。運動神経も良いからビビったときの動きがやたら俊敏で、たいてい飛び跳ねた拍子に自分の首とか腰を痛めるか、もしくはダイビングハグを仕掛けられた美鈴がとばっちりを食らう。楓の周りを三百六十度クッションで覆いたいくらいの危険物と化すのだ。
「最近、おすすめ動画で妙にホラー動画が出てくるんだけど……どう思う?」
とある休日の昼。美鈴の部屋で、楓が実にわざとらしい声音で相談してきた。
「それ、単純に楓がホラー動画を観てるからでしょ……」
「ううん。正確には、怖すぎて、サムネをタップしてはすぐにアプリを閉じてる……」
なんでちょっと自慢気なんだこの子は。
「楓、そんなに見たいんだ?」
「ぅん……」
ほっぺたをうにうにと引っ張ったら、楓はその状態で律儀に答えた。愛い愛い。
「ま、いいか。お昼だし、わたしもいるし。このあいだ小野寺くんといおりんが観てた動画でいい?」
「……っ! うん、うん……!」
とたんに目がキラキラする我が親友。可愛すぎるんだが?
湊に先日の動画のURLを聞くメッセージを送ると、ものの数秒で返信がきた。
『これだよ~』
『ありがと!』
『どういたしまして~。また何かあれば遠慮なくどうぞ~』
なんでもないやりとりにほくほくしていると、楓が美鈴の横顔を至近距離で見つめていた。
「ぅむむむむ」
とりあえず、もちもちほっぺたをもみくちゃにしてやった。へっへっへ。
「さて、観てみますかー」
「う、うん……」
湊に教えてもらったホラーゲーム実況動画を開く。
(わたしも無理なくらい怖かったらすぐに止めよっと)
などと考えていたが――結果として、美鈴は動画にまともに集中することができなかった。
「ぅひゃっ!?」
「あ、わわ……っ」
「え、無理、無理、無理無理無理……っ!」
序盤の序盤から楓はビビりちらかしていた。怖がる親友を見て冷静になる美鈴とは対照的に、楓は美鈴の後ろに隠れてがっちりと肩を掴み(地味に握力が強い)、ゲームが進むごとに視線が泳ぎまくり、どんどん画面を見る時間が減っていく。
しまいには、
「ひゃぁぁ……っ」
「え、ちょ、楓!? 見えないから!」
パニクりすぎて美鈴の目を隠した。いや、どういう混乱の仕方なの? 真っ暗な視界の中でスマホから悲鳴が聞こえてくるのでこれはこれで怖い。
ようやく楓から解放されると、ゲームは学校に入るシーンに差し掛かった。伊織が限界まで怖がった場所だ、と湊から聞いている。
さぞや怖いだろうな……と思いつつ、美鈴の肩にあごを乗せる楓の表情を見て、
「……楓」
「え、う、な、なに?」
「この辺でやめといた方がいいと思うよ」
「……うん、そうする」
優しい声音で呼びかけたためか、楓は素直に応じた。
動画アプリを閉じ、紅茶を飲んでひと息。
楓が額の冷や汗を拭い、
「これはたしかに、パパラッチにはキツいかも」
外国人に「棚に上げる」という言葉の意味を説明するのにぴったりな言葉を呟いた。
「そうだね~、たしかにキツいね~」
「え、あ、スルーしちゃうの……?」
呆れていったん流してみたら、子犬のような目で見つめてきた。
「ああもう楓は可愛いな~~~!」
「ひゃぅっ!? ちょ、美鈴……っ!」
全力で抱きつくと、楓は可愛らしい悲鳴を上げながらも、笑って抱きしめ返してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます