ひだまりで彼女はたまに笑う。
高橋徹/電撃文庫・電撃の新文芸
ひだまりで彼女はたまに笑う。
プロローグ
春の
(気持ちよすぎる)
この場所はイヤホンを着けないほうがいいな……などと考えていると、ふと。
(あれは……んん? 何をしてるんだ?)
公園と遊歩道の境にある桜の木。
それを
「にゃー」
片や
「だ、だめ……こっち来ないで……」
そして片や……。
毛先があごの辺りまで
血の筋が
(マジか……)
まるで、さっきまで絵画の中にいましたとでも言うような女の子。美しい、という
「にゃー、にゃー」
茶トラ
「うぅ……君はこっちに来ちゃだめ……」
「にゃ?」
茶トラ
(あ、桜が……)
(これは……助けたほうがいいのかな)
事情はわからないが、彼女は
「うぅ……ほ、ほんとだめなの……。こ、こっち来ちゃ、だめにゃー」
(え)
やたらめったら
気まずい。
心臓がきゅっと
生きてきた年数などたかが知れているけれど、今この
(うーん、ほんとどうしよう)
「あ、いた! もー!」
三者(?)が動けぬまま固まっていると、
お団子頭の女の子が
「もー、どこをどう進んだらこっちまで来ちゃうの……って、どうしたの?」
「みす……あっち……」
「ごめんなさい、この子ってちょっと、というかかなり……って、ちょ、どうしたの急に!?」
「ちょっと! そっちじゃない! 学校は右だからー!」
「…………」
曲がり角を曲がっていちど消えた
「……なんだったんだ……」
「にゃー?」
いつの間にか足元にいた茶トラ
「……ああもう、
「……そういえば、あの制服ってたしか……」
──ふたりの少女が着ていたのは、自分と同じ高校の制服では?
× × ×
入学式は講堂で行なわれるとのことだった。ひとつひとつの
(席は……適当でいいのか)
クラスごとにざっくりとした位置は決められているが、あとは先に来た人から奥に
「ん? どうしたん……だ……」
どよめきの中心にいたのは、先ほど通学路で出くわした
(同じクラスなのか……!)
ふたりが座ったのは
「すげぇ
「え、ああ、なんでもない。で、なんだっけ、自動運転の未来についてだっけ?」
「お前がぼーっとしてることだけはわかった」
同じ中学の友人に冷静にツッコまれた。
× × ×
入学式を終えて教室に入る。窓からは通学路である公園の遊歩道と、
黒板を見ると、すべての席に名前が書かれている。
『席はあらかじめくじで決めたので、先に座っといてください』
どうやら担任の先生があらかじめ準備してくれたらしい。書き文字でくだけた口調を見るとちょっとコミカルだなーと思いながら、
「あ、
「まさかだな」
前の席に座っていた、小学校からの友人──
「
「いつも
「定期的に言わないと
「僕のキャラって細目だけなの……?」
他愛もない話をしながら周りを見回す。中学までの友人が四分の一……といったところだろうか。
「…………」
まだ空いている席は数人分しかない。
「
「え、あ、いや? 別にそんなことは」
「
「うぐ……そ、そうだな……」
「暖かくなると変な人が増えるっていうからね~」
「お返しの切れ味が
「どう見ても
「ぅえぃあぅぉ?」
「
「すまん」
「いや、ほんと別に、
教室の入口で、銀の
「この教室で合ってる……?」
「合ってる合ってる。席は……っと。おー、すっごい近いじゃん!」
通学路と講堂で見た仲の良さそうな少女ふたりが、黒板に書かれた席を見てはしゃいでいる(といってもはしゃいでいるのはお団子頭の女の子だけだが)。すでに座っているクラスメイトたちは
(あれ? そういえば……あの人の名前って書いてあったか?)
ふと疑問に思う。
ふたりの少女はくるりと
(マ、ジ、デ、ス、カ)
心の声が片言になった。
「えっと……仲、いいんだな」
答えたのは案の定、お団子頭の女の子だった。
「うん。小学校のときはよく遊んでて、中学は別になってもちょこちょこ遊んでたの。ねー?」
「……うん」
お団子頭の女の子が両手を
「俺、
「わたしは
お団子頭の
「僕もまざっていい?
場の空気がほぐれたところで、
「あ、うん。よろし……く~」
「ええっと、あとは……」
「んーとね、今聞いたことをそのまま言うんだけど……」
口元に
『
「ちょっと待ってちょっと待って」
今朝のことを言ってるんだろうけれども、人聞きが悪いなんてもんじゃない。
「友人が入学式の日に罪を
「そういうときって『
「ふたりは息合ってるねー」
「そうか? ……いや、まあ、うん、そうか。えっと、
「ええっと……『
「原告不在の裁判みたいになってるんだけど」
「『これからは直接話しかけるのを禁止します』だってさ。わたしもめんどくさいんだけど……」
「それディストピアすぎない?」
めちゃくちゃ
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