僕の彼女は幽霊。
蒼猫
赤いきつね
「で、フタをして終わり!」
そう言って彼女はこちらを見て、どう?わかった?と聞いてくる。
僕は、洗濯機の使い方を教えて貰っていた。彼女のといに応えると、正直分からない。いや、少しは覚えた。
ただ、洗剤をカップに丁度いい量を測りきれないとか、どの服をどう洗うかとか、色分けを忘れてしまっただけで。
ううんと唸る僕を見て、彼女はため息をつく。呆れられてる…。
「ちょっと休憩しようか。」
少し眉を垂らして、困ったように、微笑むように彼女は僕を見ている。それに僕は素直に頷いた。
部屋のソファーに座ってぐっと背伸びをして背もたれに寄りかかる。疲れた。
もう教えてもらってから約1ヶ月経ったというのに一向に上達しない。
これを毎日できる彼女は凄いなぁ、なんてぼんやり思う。
突然、ガシャンっと大きな音と彼女の小さい悲鳴が聞こえた。慌ててキッチンの方に向かう。
「ごめんなさい。」
彼女が僕を見てそういった。視線を下ろすと、割れたカップと零れたコーヒーが床に散らばっていた。
落ち込んでいる彼女に、「大丈夫だよ」と声をかけて、しゃがんでカップ破片を取る。
ふと彼女の方を見ると、彼女が座って破片を取ろうとしていた。僕は慌てて彼女に手を伸ばす。しかし、僕の手は彼女の腕をすり抜け空を切った。
「あっ」
と小さく口から声がこぼれ落ちる。彼女も驚いたような顔をした後、ふっと笑う。
「もう死んでるんだから大丈夫だよ」
と、自虐なのか心配させない為の言葉なのか、分からないことを言って彼女は再び破片を拾いだした。
今度は止めることは出来なかった。
少し気分が落ちてしまってこの後料理を教わるはずだったけれど、そんな気分ではなくなった。
何かないかなと戸棚を漁る。丁度よくカップ麺が余っていた。それを2つ取ってポットでお湯を注ぐ。
カップ麺と言えばもちろん赤いきつねと緑のたぬきだろう。僕も彼女もこれが1番好きなのだ。彼女が緑で僕が赤。ずっと昔からこうだった。
お湯が入ったカップ麺をテーブルに置いて彼女の前に座った。
僕の彼女は死んでいる。今僕の目の前にいるのは彼女の幽霊だ。
彼女が幽霊になってから僕に家事を教えてくれるようになった。それはきっと彼女が消えてしまっても1人で生活できるようにだ。
本当は、料理も掃除も洗濯も彼女に教えてもらった事は完璧にできる。でもこうやって、いつまでたっても出来ないふりをするのは、僕を心配してまだ一緒にいてくれるかもしれないから。
僕が彼女に教えてもらった事なら完璧に出来るともし言ったとしたら、ずっと一緒にいたいのだと伝えたら、彼女はどんな反応をするだろうか。
驚くかな、呆れるかもしれない。でも、きっと最後には少し眉を垂らして、困ったように仕方ないなって顔で笑ってくれるんだ。
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