中指だけ勇者

玉ねぎサーモン

第1話 プロローグ①

「このバチあたりが〜〜〜!!!!」


真っ白な何もない空間で、俺は知らないじいさんに怒られていた。


「神聖な石碑をなんだと思っちょる!!」


(石碑?

 ああ…、あれか…。)


「小便かけた上に、足蹴にしおって…!」


(おいおい…。

 確かにそうだけど…、違う…。

 違うんだよ…。 )






◆   ◇   ◆  






俺の両親が事故で亡くなったのは1年ほど前。


遺産として家と多くない貯金を受け継いだ。


親戚の連中が遺産をめぐって醜い争いを繰り広げていた。


人が死んだってのに…、本当にあんな欲望剥き出しで争えるもんだと思った。



それから学校のマドンナが話しかけてくるようになった。


両親が死んで落ち込んでる俺を元気付けようとしていたみたいだ。


だけど、遺産がそんなにないことがわかると、いつの間にか離れていった。


高校生のくせに遺産にたかろうとするなんて、末恐ろしい女だ。



そんな真実を知らないクラスカーストの頂点にいるバカが、勘違いから嫉妬して俺に嫌がらせを始めた。


人と話すのが苦手で、クラスカーストとか興味ない俺は、そもそも面白く思われてなかった。


いじめはどんどんヒートアップして、昨日?になるのか? …まあ昨日近所の小さな神社に連れて行かれた。


人が滅多に通らないその神社の裏で、殴る蹴るの暴行、しまいには服を全部脱がされてみんなから小便をかけられた。


極めつけに、小さな石碑を取り囲んでたロープを俺の首にまきつけ、上にあった木にロープをひっかけた。


数人がかりで引っ張られたロープによって、俺は石碑の上に全裸で立たされる状態になったのだ。


そこで木にロープを固定したら…、首吊りをしようとしてる高校生の出来上がりだ。


そいつらは完全に動けない俺をサンドバックにして満足すると、そのまま帰っていきやがった。


流石に殺すことはしなかったが、全裸では助けを呼ぶのもためらわれる。



…俺が何をしたっていうんだ…。


もはや麻痺してきていたそんな思いが、強く湧き上がってくる。



そのとき。



足元の石碑がグラグラと揺れ始めた。


(嘘だろ!?

 地震か!?

 やめてくれ…!)


俺の思いも虚しく石碑が倒れ、俺は死んだ…、んだろう。






◆   ◇   ◆  






そして真っ白な空間に至る。


不幸にも命を落としてしまった古仙 蒼真(こせんそうま)は死んでからも言いがかりをつけられていた。


「あんた、もしかして神様か?

 だったら見てたと思うけど、小便かけたのは俺じゃないし、石碑も無理矢理乗らされたんだよ。」


「神に向かってその口の聞き方はなんじゃ!?

 最近の人間はロクなのがおらん!」



(なにが神だ。

 あんな目に遭ってたのに、助けてもくれなかったじゃねえかよ。)



何度神様に祈っただろう。



『助けてください…。』


『この地獄から抜け出させてください…。』


『お願いします…。』



結局その祈りはちっとも届かなかった。



だが、ここで反抗するほど蒼真は愚かではなかった。


「…すみません。

 あなたはやはり神様なのですか?」


「…ふん。

 見りゃわかるじゃろ。」


(わかんねえよ。)


「失礼しました。

 それで、俺はどうなったんですか?)


「あ?

 死んだに決まっとろうが。」


(…やっぱり…。

 それにしてもムカつくじいさんだな…。)


「これから俺はどうなるんでしょう?」


「あ〜、どっかの世界に転移してもらうんじゃよ。」


「い、異世界転移!?」


「最近のやつは大体知っておるの。

 つまらん。」


(元の世界には未練はない。

 父さんも、母さんもいないし…。)



「どんなところに転移するんですか?」


「転移者の生存率0%のハードな世界じゃ。」


「え!?

 なんでそんなところに!?」


「このワシを足蹴にしてたんじゃ。

 当然じゃろ。」


「だからそれは…!」


「うるさい!!

 振り落とすのにどんだけ余計な力を使わされたと思ってるんじゃ!?」


「ふり…落とす…?」


「ワシらが現世に干渉することは基本できん。

 ワシ自身が祀られた石碑ですら動かすのは大変なんじゃ!」


「じゃあ…、足元の石碑が揺れたのって…、地震じゃなかった…?」


「違うわい!」



「……このクソジジイが〜〜〜〜!!!!

 てめえのせいで俺は死んだんじゃねえか!!!!」


「このクソガキが!!!

 誰に向かってクソジジイなどと…!!!

 もういい、向こうの世界に行ってしまえ!!!」



蒼真は神に向かって飛びかかろうとしたが…、すぐに意識が暗転した。

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