第9話 ふかふか
結心さんと出会ってから学校生活がガラリと変わった。
朝は結心さんが自転車で私とととくんを迎えにきてくれて、授業中は私が少しでも暇そうにすると先生がこっそりと教室を出たいか聞いてくる。
お昼は結心さんと3人でランチタイムを楽しんで屋上で日向ぼっこしたり、校庭が空いていればミステリーサークルを作ったり遊ぶ。
それから夜にかけて結心さんが連れて行ってくれるご飯屋さんでご飯をご馳走してもらって家まで送ってもらうのがここ最近の私たちの日常。
今日も自転車に乗せてもらって学校まで連れてきてもらい、授業を受けていたけど今と次の時間は文化祭の準備をクラスみんなでするはずなのに私とととくんには割り振りされなかった。
私たちも手伝いたいと担任のツカダ先生に声をかけても、ノートを貸してくれるクラスメイトに声をかけても、『好きなことしてればいい。』の一点張り。
だから結心さんと遊ぼうと思って、結心さんの教室を覗いてみたけど1番後ろの窓際の席は空っぽだった。
愛「結心さんどこ行ったんだろう?」
とと「んー…、サボるなら中庭とか保健室かな。」
愛「確かに。人あんまり来ないからね。」
私たちは男女の声が入り混じる音が時々聞こえる屋上には行かず、その下の階段の踊り場にある窓から中庭を覗くけれど結心さんはいない。
やっぱりベッドがあるから保健室で寝てるのかもと話しながら、ととくんとそっと保健室を覗いてみる。
愛「こんにちはー…?」
頭だけ保健室に入れるけど保健の
とと「誰もいな…」
「…よ、せいっ。」
と、ととくんが何か言いかけると同時にカーテンが閉じられているベッドで息遣いの荒い女性の声が聞こえた。
私たちは凜先生が寝言を漏らしてるのかなと思い、忍び足で軋むベッド前に近づきサッとカーテンを開けると凜先生がシャツのボタンが全開になった結心さんの上に馬乗りになってキスしていた。
愛「ご、ごめんなさいっ!」
私がびっくりしてカーテンを閉めようとすると、凜先生は素早く体を起こし私の腕を掴んだ。
凜「助けて。葉星が起きない。」
愛「…え?」
私はその意味が分からず数秒凜先生の様子を見て、学期始めにあった防災訓練を思い出す。
凜「いき…っ、吹き込んで…。」
と、凜先生は必死に結心さんの心臓マッサージをしながら私に目で指示をしてきた。
固まっていた私はしっかり覚えていた人工呼吸でめいいっぱいの一呼吸を結心さんに入れると、結心さんの真っ青の唇がふるふると震えながら開き、大きく息を吸って薄目を開いた。
結心「…くろ、れー…す。」
と、結心さんがボソッと呟くと凜先生がばちんと結心さんの頬を叩いた。
凜「見たいならしっかり息しろ。」
そう言って顔を真っ赤にして怒っている凜先生は結心さんから降りて定位置のデスクに戻り、何かを探し始めた。
とと「…大丈夫、なのか?」
愛「…結心さん。大丈夫ですか?」
パンツに夢中で私たちを視界にいれてくれなかった結心さんに声をかけると、結心さんはその声に反応してゆっくりと顔を向けてくれた。
結心「おー…、らぶ子ととと丸じゃん。授業は?」
愛「い、今は文化祭の準備時間なんで暇なんです…。」
結心「ああ、そっか。来週だもんな。」
と、結心さんは大きく深呼吸を3度して起き上がり、ベッド脇にかけてあったブレザーのポケットから電子煙草を出した。
愛「…煙草、やめたほうがいいんじゃないですか?」
結心「んー…?やだ。」
愛「え?なんで…」
結心「俺の人工呼吸器ってとこ。」
そう言って結心さんは大きく煙草を吸い、顔が隠れてしまうほどの煙を吐いた。
とと「そんな訳ないだろ。」
愛「肺とかなんかとか悪そう…、です…。」
結心「悪いかもだけど、これを吸うってことは必然的に酸素も吸うって事だし、息の吸い方思い出すの。」
愛「…思い出す?」
私とととくんが首を傾げていると、凜先生が結心さんに聴診器を当てたり血中酸素を測り始めた。
凜「こいつ、息忘れる癖あるから。」
愛「そんな癖あるんですか…?」
結心「癖って言うか知らないうちに忘れてるんだよね。」
息って勝手に吸ったり吐いたりするもんだと思ってたけど、結心さんは違うのかな。
そう思っていると結心さんは私の頭を撫でた。
結心「お目覚めちゅーありがと。」
愛「…え。」
結心「ニーナだったらいつもコーヒー臭いから。」
凜「おい。恩人に臭いって言うな。」
結心「俺、コーヒー好きじゃないし、黒レースよりシームレスのベージュがいい。」
凜「お前の好みで私を作るな。まあ、そんな口は聞けるし、数値も問題なし。今日のとこはゆっくりな。」
結心「あーい。」
と、結心さんは乱れた制服を直しながらブレザーからお財布を出した。
結心「今日は屋上じゃなくてここでいい?」
愛「え…、あ、はいっ。」
結心「じゃあ恩人たちにジュース奢っちゃうねー。」
凜「ブラック。」
結心「ん?コーラ?」
凜「…なんでもいい。」
結心「はーいっ。らぶ子たちは一緒に来て。」
愛「はい!」
私とととくんはいつものように結心さんについていき、中庭にある自販機に向かった。
環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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