訂正
バイトが終わって一目散にロッカーに制服をしまい、ポケットからスマホを取り出す。
『浮気なんてしてないから、俺はずっと蓮ちゃんのことが好きだよ』
打っていて少し気恥ずかしかったけど、ここははっきり言っておかないと。
既読はすぐについた。ブロックされてなくて良かった。
返信がすぐに来ないことはわかってる。でも正直、ほんの少しでもいいから早く返信が来て欲しいと思ってしまった。
そわそわしながら家に帰り、晩御飯を食べる時も風呂に入ってる時も気になってちょくちょくスマホを確認した。だけど返信は来ていなかった。
この調子だと今日中に返ってくる可能性は低い。ブロックされてないことがわかっただけマシだと考えるしかない。
スマホを枕元に置いて、布団に入る。
電気を消して目を瞑っていても、頭の中はスマホがバイブレーションを起こさないかどうかが気になっている。
蓮子から返信が来ない可能性の方が高いとわかっているはずなのに、もしかしたら、と考えてしまってどうも眠れない。
30分に1回くらいスマホを触ってる気がする。
そわそわして眠れない時間が続き、結局、朝を迎えてしまった。
朝起きてすぐにやったことと言えば、まずスマホで蓮子から返信が来てないかの確認だった。
スマホの電源を点けた時に、何も通知が表示されなかったのでもうそこで返信が来てないことがわかってしまった。なんだよ……。
既読だけはついて返信は来ない。
蓮子のものと思しきアカウントには、どうしようかな、なんて意味深な呟きがされてる。
どうしようかな別れようかな、ということだろうか。嫌な方向に考えが向いてしまって、ベッドから起き上がれない。
あ〜嫌やや、学校行きたくねぇよ……。
今までに何度か学校に行くのが億劫になったことがあるけど、今は過去一行きたくない。
蓮子からの返信は来ないし……。
仮病で休もうかと考えたけど、母親がそんなことを許してくれるわけもない。
渋々登校した俺は、教室に入り席に着いてからすぐに項垂れた。
蓮子からの返信は来ていない。
何か送ろうかと考えたけど、催促してるみたいだし、それにしつこいと思われたら嫌だから、待つしかなかった。
そんな俺の耳に入ってきた女子たちの会話。
「前喧嘩してたって言ったじゃん、それがさ、彼氏が家まで来て謝って来たんだよね」
「え、そうなの⁉︎ で、許したの?」
「当たり前じゃん、わざわざ家まで来てくれたんだよ」
「いいなぁ、私の彼氏もそんなんだったら」
俺はそんな会話を聞いてふと思った。
何もメールだけじゃなくてもいい。直接、蓮子に会って誤解を解けばいいんだよ。
そうと決まれば、バイトは今日休みだし、蓮子の家に行って、浮気してないとはっきり伝えるんだ。
「よしっ」
と俺が顔を上げたら、目の前に同級生が座っていた。
「うわびっくりした」
「何がよしなのさ」
黒縁メガネをかけた
高校に入って最初にできた友達で、よくゲームをして遊んでいる。
彼のアカウント名は『のっぽパン』。
背が高く細長いからのっぽと呼ばれ、米よりパン派だからと言う理由で付けた名前らしい。
「いや、何でもないよ」
「噂の彼女? 上手く行ってねぇって呟いてたけど、喧嘩したの?」
「お前、彼女と? とか言ってリツイートしただろ。お陰でいいねがめっちゃ来たぞ」
「まぁまぁ、で、どうなの? 喧嘩したの?」
「そんなこと言えるわけ……」
そもそも喧嘩なのかこれは。
俺が浮気してると何故かそうなって、蓮子が既読無視を続けてる。喧嘩というか嫌われてる……。
細川に言っても拡散されかねないからなぁ。そんなことされたらもっとややこしいことになるし、というか浮気してないし。
細川にそれ以上は訊かれなかった。
興味をなくしたのか、今日ゲームしようと誘ってきた。
元気出せよ、と気遣ってくれたけど、細川の口元はにやけていて明らかにおちょくっていた。
これは何がなんでも誤解を解かなければ。
蓮子に会いたい気持ちが、1時限目、2時限目と授業が終わる度に強くなっていった。
暇さえあれば蓮子から連絡が来てないか確認したり、彼女の裏垢を確認したりした。
けど、返信は来ず、呟きもされていなかった。
学校が終わった俺は一旦家に帰った。すぐに行ってもおそらく蓮子はまだ帰ってないと思ったからだ。
制服から私服に着替えて、髪型もワックスで整え気合いを入れ直す。
蓮子に告白した時くらい緊張してる。ただ誤解を解くだけなのに、拒否されたらどうしよう。
怖いけど、このままだと何も解決しない。
「よしっ」
喝を入れるよにそう言って、俺は家を飛び出した。
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