一緒に帰る
ICカードをかざして、俺と蓮子は改札を抜けた。
俺の家の方角的に南口方面を出なければならないが、蓮子は北口方面という別れ道。
時間帯は18時を少し過ぎている。
もちろん、俺は蓮子を1人で帰らそうなんて考えていない。
変な男に捕まらないか心配なのと、少しでも長く側に居たいと、乙女ちっくなことを考えてのことだ。
蓮子は相変わらずスマホをいじって、何も言うことなく北口へと歩いて行く。
「家まで送って行くよ」
「別にいいよ」
案の定断られるも、俺はここでめげない。
「でも心配だし」
「そんな遠くないから」
確かに遠くはない。けど、近くもない。それに俺が一番心配しているのは、帰り道についてだ。
蓮子は、ナンパスポットとしても有名なイベント広場をいつも通って帰る。本人曰く、近道なのだと。
だけどそこは、しょっちゅうナンパが行われていて、付近には色々な飲食店が立ち並び、少し歩けば飲み屋街だってある。
一度そこで待ち合わせをしたことがあって、30分くらい早く行ったのに、なぜか蓮子は俺よりも早くそこに居て、ピアスやらネックレスやらをジャラジャラと付けた男にナンパされていたことがある。
俺が行くと、その男は早々に諦めてくれたが、やっぱり心配だ。
「蓮ちゃんがなんて言おうと、俺は家まで送って行くから」
「……あっそ」
蓮子はそれ以上何も言わなかった。
別に嫌じゃないってことだよね。と、ポジティブに捉える。
夕方の時間帯とあってか、イベント広場周辺の飲食店にはけっこうな人がいて、よく賑わっている。ナンパ待ちだろうか、黒いミニスカ―トを穿いた女の子が1人、石のポールに座ってスマホを弄っている。そこへ1人の男が近づいた。
「ねぇ、もし暇なら中華食べに行かない?」
「え~中華? こっから近いの?」
「めっちゃ近いよ、すぐそこだし。舌が取れるくらい美味しいから行こうよ」
今まさに行われているのは、ナンパだ。
俺としては、こんな道を蓮子に通ってほしくはないけど、私の勝手でしょ、なんて言われたことがあるからな……。
蓮子の性格上、ナンパされてほいほいとついて行かないような気はする。でも、さっきから、ナンパしようとしているのか知らないけど、蓮子をちらちらと見る視線を感じる。確かに蓮子はめちゃくちゃ美少女だから仕方ないことだけど、俺の彼女だからね。
こういう時、さりげなく手でも繋げたらな。
相変わらず蓮子の手は短パンのポケットの中だから、さりげなくなんて無理で、ただ隣を歩くことしかできない。
それから無事に蓮子を家に送り届けた。
「じゃあまた」
そう言って手を振ったら、
「また」
と、そっけなかったけど小さく返してくれた。
それが今日一番で嬉しかった。
一応、蓮子の中に俺は存在してたんだなって。
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