第27話 ルシファーの傲慢とミナトの傲慢
ルシファーは世界が生まれてから初めて神と敵対した人物だ。兄であるサタンは彼を止めたが、ルシファーは自分より弱い兄の言葉など聞きはしなかった。
ルシファーには自分以外が全てくだらないものに見えていた。神でさえも。
自分の下である神に従うというジレンマ、そして弱者である人間のために最強である自分が働かなくてはいけないという矛盾に痺れを切らしたのだ。そしてルシファーは自分に同調する天使たちを連れて神に戦いを挑んだ。壮絶な戦いだったがルシファーは敗北する。
そしてその罪に対する罰として彼らは地獄に落とされることとなる。
*
悪魔に堕ちてから地獄の中でなにも感じない暗闇の中にいた。だが苦痛だとは思わなかった。退屈だと思ったぐらいだ。神に敗れ信念が折られた瞬間に俺の生は終わったからだ。
人間たちが神にあらがうために俺たち悪魔と契約をしているのは知っていた。だがくだらないと思った。俺が勝てなかった神に俺以外の誰が勝てるのかと。
だから召喚にこたえることはなく世界の終わりをただただ待っていた。
そんな俺が一緒にいて心地いい人間と出会う。なぜかその人間と居るのは楽しかった。そいつといるときだけは自分のプライドを忘れた。
その人間は俺にとって初めての友となった。
だがその友は四大天使ごときに命を奪われた。俺に本来の力があればこんな事にはならなかった。
友の死に一緒に立ち会ったガキがいた。そいつは俺の友を父と慕っていた。そして力を欲していた。だから俺はそのガキと契約をした。ガキの要求は簡単だった。
『世界なんかどうでもいい。父さんの仇をとる。そして父さんが守ろうとしたものをボクが守る』
一緒にいて分かったがガキは俺が思ってたよりももっとイカレていた。こいつは神や世界だけでなく自分さえもどうでもいいと思っている。
だがこいつがどれぐらいイカレていようと関係ない。俺たちの契約は最初のまま変わらないのだから。
『俺は友の残したものを守る』
そして今に至る。
「勝手に死ぬな。殺すぞ」
*
ミナトの前に真っ黒なスーツに身を包んだ金髪の男が現れる。
「・・・ルシファーなのか?」
「ああ、顕現してやったぞ、ありがたく思え」
「頼んでないけど?」
「同化してやる。だからもっとイカレて見せろ」
「悪魔ごときが指図するな」
「人間ごときが俺の命令に逆らうな」
「ちっ!あの悪魔に勝てなかったら殺すぞ?」
「人間が俺に条件を出すだと?死にたいのか?」
「自信がないのか?それならこの場で殺してやるよ」
「お前こそ俺と同化することに恐れてごねてるだけなんじゃないのか?」
「、、、さっさと同化しろ。お前と話していると吐き気がする」
「同感だ」
―同化-
ミナトと顕現したルシファーが一つになる。背中には黒く染まった6対の翼。そして金に光る瞳でアバドンを睨みつける。
「「おい、アバドン。お前ごときが俺たちに指図するな」」
「見損なったぞ!ルシファー!貴様が人間ごときと同化するとは!恥を知れ!」
「「さっきからお前うるせぇよ」」
「殺して隷属してやる!」
アバドンはミナトに向かって突っ込んでくるが、近づけば近づくほどアバドンの時間が巻き戻っていく。ミナトの前まで辿り着いた時には、アバドンは1万年ほど巻き戻されていた。
人間と違い天使や悪魔に老いという概念がない。故に基本的に長く生きている者の方が強い。だから若返れば若返るほどその力は弱まっていくのだ。
この形態になってもミナト自身の力が決してそこまで強くなるわけではない。ただ相手が弱くなるのだ。触れる必要も何かを唱える必要もない。ただミナトの前まで来た者は『可逆』の力によってミナトより弱い状態まで戻される。故にこの場においてミナトは最強になる。
「くそっ!」
アバドンは一旦距離をとろうとするがこれを逃がすほどミナトは甘くない。今必要なものがこの場に存在していた瞬間まで時を巻き戻す。そしてミナトの周りには無数のミサイルが現れた。
「思ったよりエグいのが昔この場に在ったみたいだ」
ミナトは挙げていた手を一気に振り下ろす。それを合図にミサイルが一斉にアバドンへと向かって飛んでいく。そしてアバドンにこれを回避するすべはなかった。クリティカルヒットである。
「うがぁぁぁ!!!」
「おいアバドン。最初からずっと気になってたんだが、なんでお前は俺に対して敬語を使わない?昔は敬語を使っていたはずだが?」
「ちっ!」
「悪魔に堕ちて、まさか俺と対等にでもなったつもりか?」
ミナトではなくルシファーがアバドンに語りかける。
「顕現したとしてもいい気になるな!所詮人間と同化しないと力を発揮できない!私のように受肉した悪魔のほうが上だ!」
「確かに受肉すれば悪魔としての完全な力を発揮できる。だがそれがどうした?お前ごときが全力を使っても俺の半分にも満たない。今のままで十分事足りる」
「なっ!舐めるな!!!」
激昂したアバドンが再びミナトに飛び掛かる。
「はぁ、バカは何も学ばないから嫌になる」
向かって来たアバドンの首をミナトは掴む。
「ぐがっ」
「俺の前に立つ者は皆俺よりも弱くなる。だから格上に勝つための工夫をするしかない。それを馬鹿正直に突っ込んでくるとは。しかも2度続けて。貴様の頭には本当に脳みそが入っているのか?」
ミナトは蔑むような笑みをアバドンに向ける。
「うぐがぁ!」
「耳障りだ。死ね」
ミナトがアバドンの首を握り潰そうとした瞬間、アバドンがその場から消える。
「ん?」
ミナトが後ろを見るとアバドンはサマエルに抱えられていた。
「お前は頭が回るようだな。でもこのまま俺が逃がすと思うか?」
「普通なら無理でしょう。だが私は加勢を捨てて、この瞬間のためだけに力を集中していました。逃げの一瞬のために」
サマエルはアバドンを抱えたままその場から消え去る。
「ちっ!逃がしたか。だが死にぞこないを連れて逃げることに何の意味があるんだ?」
「そんなの決まっているだろう」
ミナトの疑問にルシファーが答える。
*
なんとかサマエルのおかげで逃げのびたアバドンは傷の回復に努めることにする。
「サマエル!しばらくここで養生できる準備を整えてこい!」
「・・・」
しかしサマエルはうつむいたまま動こうとしない。
「何をしている、サマエル!」
アバドンが怒鳴っても一向に動く気配はない。そしてボソッと呟いた。
「やっと食べごろになった」
ゆっくりと顔を上げたサマエルは悍ましい笑みを浮かべていた。
「サマエル!貴様何を!」
「サマエルって呼び方やめてもらえるかな。そんな奴もう居ないから」
「はぁ!?」
「俺が喰っちまったんだよ。そんで次はあんたを喰らわせてもらう。食べやすいようにちょうどよく弱らせるのには苦労したよ」
サマエルはゆっくりアバドンに近づいていく。
「ふざけるな!」
「いたただきます」
「ぐがぁぁぁ!」
サマエルは文字通りアバドンを食っていく。
「やめろぉぉぉ!」
「うるさいな。餌は黙って喰われなよ」
「お、俺はアバドンだぞ!!!」
「それがどうかした?腹の中に入れば全部一緒だ。お前はこの場で存在ごと消え去るんだ」
「い、いやだぁぁぁ!やめてくれぇぇぇ!!!」
「・・・」
「・・・」
「ごちそうさま」
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