あの日の作為
空殻
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放課後の教室。
夕焼けの光が、教室全体を照らしている。
窓際の席には、彼女が座っていた。
教室に戻ってきた僕に気付いて、彼女は薄く笑った。
「何、忘れ物?」
「ああ」
僕は自分の机まで行って、ノートを取り出して見せた。
「君はまだ帰らないの?」
「ん。ちょうど今帰るところ」
僕が訊ねると、彼女はそう答えて立ち上がった。
「一緒に帰ろっか」
彼女の提案に、僕は頷いた。
「……で、急にそんな思い出を話して、どうしたの?」
妻が怪訝そうな表情で聞いてきた。
僕は答える。
「いや、ただ白状したかっただけ。……僕はあの日、本当は忘れ物なんてしてなくて、ただ君と一緒に帰りたくて、教室に戻っただけだったんだ」
「えっ」
妻が驚いた。
しかし、数秒後には彼女は笑い出した。
今度は僕が怪訝に思う番だった。
「どうしたの?」
「いや、だって。君があの日わざと教室に戻ってきたことなんて、気付いてたから」
「本当に?」
「うん。でも、良かったよ。その様子なら、気付いてなさそう」
首をかしげる僕に、彼女は恥ずかしそうに白状した。
「あの日、君に『一緒に帰ろう』と言った時、私、顔がすっごく赤くなってたんだ」
あの日の作為 空殻 @eipelppa
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