第119.5話

懐かしい夢を見た。あれはまだ父も義母も生きていた頃だ。


幼い頃から周りの大人達から俊秀だと言われ、それが重荷だった。父は厳しく完璧である事が当たり前だと考える人だった。例外は認められない。


勉学も剣術も必死に努力した。だが、たまに行き詰まる事があり、そんな時は決まって屋敷から少し離れた空が近い丘へと足を運んだ。

夜中にこっそり抜け出す。一人になりたかった。


ある日目敏い妹に目撃され、いつの間にか妹と一緒に行く事が増えた。

普段は物凄く鈍い癖に、こんな時だけ敏感だと呆れたものだ。


ただ、本当は嬉しかった。一人になりたい反面、一人になり考え込むと孤独を感じて仕方なかった……。あの時改めて感じた。リディアは自分にとって光であり、自分の全てなのだと。


あの夜、リディアに「格好良い」と言われ恥ずかしくて、酷く嬉しかった。騎士がどうのとも言い出した。そして彼女に誓いを立てた、彼女だけの騎士になると。きっとリディアは忘れているだろう。


「俺は、死んだって忘れてやらないから……」


ディオンは窓の外の星空を眺め、強がりを呟く。


リディアはもう自分を必要としていない。彼女に見限られた。現実だと思いたくない。今直ぐ彼女の口から「冗談よ」そう聞きたい。


これまでリディアの為ならどんな事でも耐えて来た。リディアの為、それを自分への言い訳の免罪符とし汚い事も非道な事もやって来た。

今でも迷いも後悔もない筈なのに、こんなにも孤独に思う。リディアがいないだけで、この世界に一人取り残されてしまった様に思えた。



神殿に立て篭もり、暫く経つ。いつ何時攻め入られるか分からない。死ぬ事に恐怖はない。もう何度自ら死んだのかも覚えてないくらいだ。


ただ、リディアがいないのは初めてだった。


瞬間心臓が早鐘を打つ。今回は何時も違うと、ひしひしと感じている。多分死んだら、それで終わりの様な気がしていた。


何度苦しい思いをして耐えては繰り返して来た時間が、急に意味のないものに感じる。


結局、リディアを手放す事になった。見放されてしまった。


「自業自得か……罰なのかもね。……リディアが生きている、それだけで良いじゃないか」


自分に自分で言い聞かせる。


『ディオン』


リディアに呼ばれた気がして、ハッとする。そしてディオンは力なくその場に崩れ落ちた。


「リディア……頼むよ、俺を捨てないでよ」


やはり、弱く浅ましい自分には勝てない。リディアがいないと息をするのだって苦しくなる。どうしたらいいのか分からなくなってしまう。莫迦な自分を嘲笑した。




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