第116話
目が覚めてから三日経った。大分身体は回復していた。
窓の外を見遣ると、門の外に兵士が立っている。どうやら彼等は王妃の命で、リディアが屋敷から出ない様にと見張っているらしい。所謂軟禁状態だ。故に屋敷からは簡単に出れそうにない。
「雨……」
しとしとと雨が天から降り注ぐ。まるで誰かが泣いている見たいだと、ぼんやりと思った。
先程、ハンナから聞いた。今日は……リュシアンの葬儀なのだと。
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まさか彼がね。
まだお若いのに……。
お気の毒。
可哀想に。
そんな同情する声が終始聞こえてくる。フレッドは棺に縋り付き泣き噦る、真っ黒なドレスを身に纏ったシルヴィの背を眺めていた。
小雨だが地味に濡れる。それなのにも関わらず傘を差していない。その所為でドレスは水を吸い重くなり滴が垂れていた。
傘を差してあげなくてはと頭では考えるが、身体が動かない。
何も出来なかった……。
結局彼女を助けたのも、リディアだった。自分は戸惑い混乱し目の前の現実を信じられなくて、ただ傍観していた。今ですらそうだ。雨からすら彼女を護れないでいる。情けなくて悔しくて、どうしようもない。
リュシアンが死んだあの日から数日、シルヴィと顔を合わせなかった。どんな顔をして会えばいいか分からなかった。
どうして助けてくれなかったの?
そんな風に責められるのが怖かった。
白騎士団長でありエルディー公爵家の令息であるリュシアンの葬儀には多くの人間が参列している。
本当はもっと早く葬儀を執り行う筈だったそうだが、余りにもシルヴィが悲しむので両親が葬儀を遅らせたと聞いた。
不意に視線を感じ振り返ると、思わぬ人物がいた。いや彼は白騎士団の副団長なのだ。寧ろ参列するのは至極当然かも知れない。
生前リュシアンとエクトルは上官と部下と言う立場だけでなく、友人としてもとても仲が良かった。ただ最近ではエクトルは何かを調べ周り、まるで姿を見掛けなくなっていた。
「エクトル兄さん……」
黒い外套を纏い、ただ友の横たわる姿を眺めている。
棺の中のリュシアンの周りには無数の白い花が引き詰められていた。男性だが花が良く似合う……そんな事を呆然と考えていると、やがて棺に蓋が閉められる。
「兄さんっ、いや、嫌よっ」
蓋を持っている男等にしがみ付き、必死に止めている。
フレッドは堪らず駆け寄る。そして泣き喚くシルヴィの身体を背後から押さえた。それでも彼女は暴れて叫び続けている。
「兄さんっ、逝かないでっ……逝かないで……」
そんなシルヴィの姿に彼女の母や、数人の女性達が啜り泣く声が聞こえてきた。
棺に冷たい土が掛けられていく。少し離れた教会の鐘が辺り一面に鳴り響いていた。彼の死を嘆く様に……。それから暫く、雨が止む事は無かった……。
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