第103話
試合の最中に、悲鳴が聞こえた。するとそれと同じに、黒い外套の男等が会場へと雪崩れ込んで来る。もはや試合どころでは無い。ディオンはリュシアンから剣を引く。瞬間男の一人が斬りかかって来た。
男の剣を受け応戦する。何度か打ち合う内に男の剣を弾き飛ばしたが、直様短剣を引き抜き向かって来た。剣の腕も去る事ながら、随分と戦闘に手慣れている。
一体何処の手の者か……。
ディオンは隙を見て、敵と距離を取る。そして、瞬時にリディアの方を確認した。すると丁度男が、近くにいた騎士団員の一人に斬りかかり、弾き飛ばされていた。リディアの友人であるシルヴィと言う娘が一度近付き離れて行く。錯乱しているのか、滅茶苦茶な動きで逃げ惑っていた。
「シルヴィ‼︎」
近くで敵に応戦していたリュシアンが叫んだ。そして徐に駆け出す。ディオンもそれに続いた。
後方からは敵が追って来るが、これ以上構っている場合ではない。すると背後から剣の擦れる音が聞こえる。駆ける足はそのままに後ろを確認すると、ルベルトとレフの二人が敵を足止めしているのが見える。
こう言う時だけは、出来た部下だと鼻で笑った。
ディオンは前方を走るリュシアンの背を見ながら思う。同じ妹を持つ身としては申し訳ないが、彼の妹が囮になってくれて助かった。今の内にリディアを助ける事が出来ると、内心安堵している。
自分でも最低な人間だと自覚はしている。リディアが聞いたらそれはもう怒り狂うだろう。だが、ディオンに取って正直リディア以外の生死など興味はない。それは自分の命でさえ違わない……。
「嫌ー‼︎」
リディア等の付近まで後少しと迫った時、一際大きな悲鳴が聞こえた。シルヴィの声だ。彼女は地面にしゃがみ込み、壁に背を付けていた。逃げ場はない。
「やめろっ‼︎」
リュシアンが取り乱し叫びながら必死に駆けて行く。だが、まだ距離がある。多分間に合わない。冷静にディオンはそう考えた。
「シルヴィー‼︎」
リュシアンの必死の声も虚しく、男の剣が宙を舞う。そのまま剣はシルヴィに振り下ろされた。
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