第26話

「リュシアン、探したんだぞ」


リディア達が立ち話をしていると、後ろからエクトルが呆れ顔で近付いて来た。


「突然姿を消したと思ったら、こんな所で油を売ってるとはな」


「休憩を何に使おうが、私の勝手だろう」


少し拗ねた様に話すリュシアンに、リディアは意外に思い眉を上げる。何時もの彼なら絶対直ぐに、申し訳なさそうにして謝る筈なのに……。


「いや……とっくに時間過ぎてるぞ」


「あぁ、それは気付かなかったな」


「確りしてくれよ、団長様。あんたがちゃんとしないと、下に示しが付かないんだ」


先程も感じた事だが、此処の所リュシアンの様子がおかしい。以前はあんなに生真面目なくらい確りしていた筈なのに……何かあったのだろうか。


シルヴィを見遣るが、別段気にしている様子はない。リディアの思い過ごしか、若しくは元々リュシアンはこういう人間で、リディアが気づかなかっただけかも知れない。余り認めたくはないが、自分は結構鈍感らしい。


「分かってる」


「分かってるようには思えん。最近少し浮つき過ぎだ」


本気ではないだろうが、エクトルは少し苛立っている様に見えた。気まずい空気が流れる。


そんな二人の間に入る事は憚られてしまい、暫くエクトルとリュシアンのやり取りを黙って見守る他無かった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あー、面倒くさいよねー」


「なら、レフは待っていたら良かったんじゃないか」


ディオンが歩いている後ろを、レフとルベルトがついてくる。今日は月に一度の国王への定例報告の日故、必然的にこの南側の廊下を歩く事になる。


「僕だけ仲間外れなんて、やだよ」


「餓鬼か」


後ろの二人は終始そんな会話を繰り広げているが、ディオンは無言で反応はしない。面倒臭い。


「あ、うわ……」


「今度はどうしたんだ」


レフは嫌そうな声を上げて顔を歪ませた。その様子にルベルトは訝しげな表情になる。


「出た……白騎士団長。苦手なんだよねー。なんて言うか、如何にも偽善者です見たいな感じで。しかも、副団長まで一緒にいるし、あっちもダメなんだよねー」


「お前は見かける度に、同じ事言ってるな……」


ルベルトは、子供の様な事を話すレフに今度は呆れ顔になった。


「だってさ~苦手なんだもん……ってあれ、女の子と一緒にいる」



ディオンはレフの「女の子と一緒」と言う言葉に反応を見せ、視線を向けるとピタリと立ち止まった。


後ろ姿で顔は此方からでは見えないが、確かに白騎士団長のリュシアンと副団長のエクトルの向かい側には、二人の女の姿が見える。だが、片方の女は誰なのかディオンには即座に分かった。後ろ姿でも判別するのは容易い。良く知る人物だ。


「仕事サボって女の子に鼻の下伸ばしてるとか、やっぱり偽善者だ!」


「偽善者は関係ないだろうが偽善者は……実は、言いたいだけだろう」


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