鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~【書籍発売中】

北乃ゆうひ

第一部 転生幼女ショコラの我が儘

第1話 鬼面の喧嘩番長の最後

小説家になろう版を追いかける形での連載です。

追いつくまでは可能な限り連日更新をしようかと思っています。

追いつき次第、なろう版との同時更新となりますので夜露死苦お願いします。


お読み頂いた方々の、ひとときの楽しみとなれば幸いです。


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「よォ、鬼原おにわら


 ヨレたスーツを着た男性が、アスファルトに横たわる少年に声を掛ける。


 黒いレザージャケットに、シルバーのアクセサリを色々と身につけた少年だ。

 背も高くガタイも良い。彫りが深く厳めしいその顔には、ピアスをいくつもつけているので、ことさらに、凶悪に見える。


 少年が閉じていた目をゆっくりあけた。

 ぼんやりとした眼差しでこちらを見上げる。


「ああ、刑事さんスね」


 少年はこの辺りでは有名な人物だ。

 鬼面きめんの喧嘩番長――そんな二つ名で呼ばれ、喧嘩王というあだ名で知られる不良少年。


 だが、スーツの男は知っていた。

 この少年は確かに喧嘩をしては補導されている問題児ではあるが、決して理由のない暴力は振るわない人物であると。


「誰にやられた?」

「パツキンのチビ。顔面に良いのぶち込んだんで、その辺りに転がってるはずっスよ」


 周囲を見渡すと、髪を金に染めた背の低い少年を見つける。

 その少年の傍らには、血に染まったナイフも落ちていた。


 スーツの男は、視線を横たわる問題児に戻す。


 その問題児の左わき腹は、真っ赤になっている。

 そこを押さえている本人の左手も、真っ赤だ。


 すでに救急車は呼んである。

 サイレンは聞こえてきたものの、まだ遠い――


「どうして……いつもこうなっちまうんスかねぇ、オレ」

「さぁな」

「今日だって……連中に絡まれてたキレイな女の人を……助ける為に……連中に……注意をするだけの……つもりだったのによ……」

「そうか」

「本当は……喧嘩って、あんま……好きじゃ……ねぇんスよ……」

「そうだったのか」

「気が付くと、喧嘩売られてて……殴り返してたら、いつの間にか、喧嘩王なんて呼ばれて……」

「何か好きなコトはあるのか?」

「……パッとは、ねぇスね……でも……」

「でも?」

「お袋の手伝い……嫌いじゃ、ねぇかも……。

 メシ作ったりするのとか……裁縫……とか……」

「意外だな」

「今日も、お袋……夜勤だから……。

 メシ作って、おいた……んだけ、ど……」

「羨ましいな。俺は子供はおろか嫁さんすら、メシを作り置いてくれねぇってのに」


 冗談めかして口にすれば、少年は小さく笑う。

 弱々しい、かすかな笑みだ。


「お袋、オレのメシ、喜んで……くれて、たの、かな……」

「ああ。当たり前だろ」

「そっか」


 少年は安堵するようにそう呟くと、その瞼がゆっくりと落ちていく。


鬼原おにわら……おいッ、鬼原ッ!!」


 喧嘩番長はゆっくり、ゆっくりと、息を吐いていく。


 スーツの男は知っている。

 人間がその生涯を終えようとする時、肺の中の空気を可能な限り外に出そうとすることを。


 救急車が到着した。

 中から慌てて救急隊員が飛び出してくる。


 周囲に転がり呻く不良の群れに驚きながらも、ただ立ち尽くすスーツの男の元へとやってくる。


「通報されたのはあなたですか?」

「ああ」


 懐からタバコを取り出し、それを口にくわえながらうなずく。

 火を付け、肺を紫煙で満たしてから、スーツの男は付け加えるように告げた。


「だが、少し遅かったな」


 救急隊員は、足下で横たわる少年を見て、無念を堪えるように唇を噛む。


「すまん。少し嫌味になっちまったか……。

 アンタらを責めてるワケじゃないんだ」


 救急隊員に詫びてから、スーツの男は天を仰ぎ、紫煙を吐き出す。


「もし次の人生なんてモンがあるなら、もう少し素直に生きてみろや。

 周囲に流されるままに喧嘩屋なんてコトは、もうすんな」


 夜空に吹かれた紫煙は、まるで少年の魂のように昇っていき、やがて月に吸い込まれるように、霧散していった。



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4話までは一気に公開します

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