地母神の苦悩
空色凪
第1話 出会い
二礼二拍手一礼。
「素敵な女性との出会いがありますように」
僕は知らない町の知らない山の、その頂上にある小さなお社に向かってそう心から願った。だが、「いいだろう。その願い叶えてやろう」という神様の声は返ってこなかった。
僕の趣味は登山と神社仏閣巡り。趣味としてはおっさんくさいかもしれないが、通っていた中学に山岳部があって、そこに入部したのをきっかけに、一人で山岳系の神社仏閣を巡るのにハマってしまったのだ。
今はというと高校入学前の春休み真っ只中。この有り余る時間を有効活用するべく、今までに行ったことのない未知の神社に来ているのだった。
この神社には名前がないらしく、みすぼらしい鳥居がひとつあり、その後ろにこれまたボロボロな社があり、それら全体を山の木々が囲んでいるといった有様だった。「一体どのくらい前からあるのだろうか」と、ふと疑問に思った。
僕は興味本位でお社の周りを回ってみることにした。
そしたら、なんということだろうか。お社の後ろにはこの山の御神体と推測される岩があり、その上には髪の長い女性が俯きながら座っていたのだった。
しまったと思った。さっきの願い事聞かれていたのではないか。
そのまま一周して社の前まで戻ってきた。よし、深呼吸をしよう。そして状況整理だ。
側から目でよくは見えなかったが、彼女はなんだか不思議な格好をしていた。それに俯きながら泣いていたように感じた。一体どうしたのだろうか?
僕はこの女性にとても興味が湧いた。
早速願い事が叶ってしまうのでは?という淡い期待も持ちながら、もう一度お社の周りを回ることにした。
すると、女性は同じところでやはりひそひそと泣いていた。今度は女性の姿をまじまじと見る。
髪はとても長くそして綺麗な銀髪だった。外国人なのだろうか。そして服はコスプレなのか、天使や神様が来ているような服だった。
「あの、大丈夫ですか?」
僕は勇気を振り絞って、一人泣く女性に声をかけた。が、しかし、返答は
なかった。代わりに周囲の鳥たちが鳴くだけだった。
「あの、どうされました?」
僕はもう一度女性に声をかけた。すると、今度は僕の声に気付いたらしく、顔を上げてくれた。
「もしかして、君には私が見えるの?」
顔を上げた女性と瞳があった途端、僕の背中に電流、いや、雷が流れた。それくらい、その女性が美しかったのだった。
なんて美しい瞳だろうか。その双眸はサファイヤのような煌めきを湛えていて、切れ長な瞳だった。鼻筋もよく、顔もとても整っていて、僕は一目惚れしてしまった。そして、少しの間、完全に停止してしまった。
「見えないのね」
女性は落胆し、顔を再び下げようとした。僕は慌てて返事をする。
「あ、あの。見えますよ!」
冷静になって考えれば、この問答は幽霊と交わすやつだ。やばい。もしかして、触らぬ神に祟りなしだったか?でも、その時にはもう遅かった。
「本当に!?」
女性は涙を両手で拭うと、こちらの返答を今か今かと待っていた。
「えぇ、本当に」
そう答えると、女性は岩から飛び跳ね、こう言い放った。
「私は地球の女神ガイアソフィア。よろしくね」
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