第8話 踊る雛鳥たち


「ツィツィ。対策を立てよう。何者かが、このスノゥドームに紛れ込んでいるかもしれない」


 食堂へ戻ってきたツィツィに、セタグリスは自身の考えを告げた。



「――そうね。私たち以外に誰かが侵入しているとしたら、その人物がレモラを……」

「ああ、その可能性がある」


 仮にイグリットが殺人犯では無かった場合。他に誰かがこのドームに潜んでいて、その者が犯人だとしたら。


 このドームは広い。管理者であるツィツィと雛鳥が12人では、目の届かない部分も当然ある。



「そういえば、昨日はどうやってイグリットはこのドームに入ってきたんだ?」

「一応、ドームにも玄関と言うべきゲートがあるの。管理者専用の部屋があってね。もし外部に動く者が現れたら、アラームが鳴るようになっているのよ」


 とは言っても、極寒の中を歩いてこのドームへとやってくる者など皆無だ。


 そう、イグリットを除いて。



「イグリット。お前は昨日、一人でここへやって来たって言ってたよな?」

「そうですよ? 独り寂しく旅をしていました!」


 まったく寂しそうな素振りもない、元気で明るい声で答えるイグリット。

 そんな態度が増々怪しいのだと、本人はまるで分かっていない。



「ツィツィ。そのゲートが開いた時に、コッソリと侵入することは可能か?」

「んー、どうかしら。私が直接イグリットちゃんを迎えに行ったけれど、ゲートが空いていた時間は5分も無かったと思うし。でも絶対に不可能、という訳じゃないわね」


 極寒の空気がドーム内へ入らないように、ツィツィも開門が最短の時間になるように心がけていた。


 とはいえ、ゲートも物資運搬用の大きなもので、開閉には時間が掛かる。もし侵入したとしたら、その間だろう。二人に気付かれないように、そっと中へと忍び込むのは可能かもしれない。



 まさかこんなところへ侵入してくる者が居るとは、誰も予想もしていなかった。


 そもそも、イグリットが異例過ぎたのだ。



「取り敢えず、警戒は必要だよな」

「そうね。でもどうすれば良いのかしら。みんな、まだ幼いのよ?」

「……とにかく、独りでいないことが大事だ。ペアを作り、絶対に怪しい人物には近付かないよう、良く話をしよう」


 ツィツィもセタグリスの案に納得し、力強く頷いた。


 彼女の目に、意思の力が戻ってきた。

 残った子どもたちを護らなくてはならない。管理者としての責任を、ちゃんと思い出したのだろう。



 二人はさっそく、食堂に子どもたちを招集することにした。


 少し強い語気も使いつつ、今の状況を説明し、二人組を作らせた。


 年齢の一番上と下から順番に、同性でのペアだ。トイレや食事、エネルギーの補給など、日常生活の全てをそのペアで生活するように徹底させた。


 そしてセタグリスは適当な理由をつけて、イグリットを自分のペアとした。



 これで一先ずの対策は済んだ。

 あとは独りで行動しなければ、犯人もそう迂闊には手を出してこないだろう。


 それに犯人は自分が狩る側だと思っているかもしれないが、それは違う。


 ドームについて、より熟知しているのは自分たちの方だ。直ぐに奴を見つけ出し、犯した罪の報いを味わってもらう。


 セタグリスは拳を固く握り、レモラの復讐を決意する。



 ――だがセタグリスの想いも、呆気なく打ち砕かれた。次の日もまた、新たな犠牲者が現れてしまったのである。


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