目覚まし時計たち

ぺるしゃ*

目覚まし時計たち

「はっ、もう8時?! 間に合わない!

なんで誰も起こしてくれなかったのーーー!!!」


 絶叫が響き渡る。

 その声の主は素早く身支度をして、まだ整いきっていないボサボサな髪のまま、玄関のドアから転がるように出ていった。


 普段はいくつかある目覚まし時計のうちどれか一つは鳴るのだが、今日は一つも鳴らなかったようだ。前日にセットしておいたにも関わらず、である。



 しばらくして、誰も居ないはずの家の中で、音が鳴り出した。ベッドの脇にある小さな机の辺りから聞こえてくる。どうやら目覚まし時計たちが話し始めたようだ。


「俺疲れてるんだよねー。めっちゃ頑張ってるのに、イライラされるし。止められてもめげずに鳴り続けたのに」

「時々、言われてない時間にも、起きてるかなーって確認してあげたのに」

「こっちは善意で確認しているんだよ?」


「うるさいって言われたときは、正直傷ついた。頭悪いんじゃないかって? そんなことを言われてまでこの仕事やってられるかよ。……たくさん鳴れば、ありがとうって言ってもらえる機会が増えると思っただけなのに」

「俺もう知らねー。はいはい。黙ればいいんでしょ、黙れば」



「ずっとね、頼りにされてきたんだ。文字盤は見易いし、正確だし、優秀な子だねって」

「この前ね、ちょっと一時間遅れちゃったんだ。初めて、遅れたんだ。気が抜けてたのかな。そしたらね、信じてくれなくなったんだ、わたしのこと」

「馬鹿みたいだよね。毎日毎日遅れずに、きっちりと時間を計って、きっちりと鳴らしてきたのに。たった一回の失敗で、全部失くなっちゃった。今まで積み上げてきた信頼が、全部。そう、全部失ったんだ。取り戻さなきゃって思って、それからまた毎日遅れずに鳴らしたよ。それでも、失った信頼は戻ってこなかった。どうせ遅れるんでしょって思われてる。その証拠にまたひとつ、増えたもん。わたしが鳴らなくても問題ないように、だって」

「……だったら、もういいよね。わたしは必要ないってことだよね」



「私はそもそも期待されてないみたいよ?随分と長いこと、時間ずれたまま直してもらってないから。やることないわねぇ。他の子たち頑張ってー」



「ぼく、これまでずーっと毎日頑張ってきたんだよ?毎日、毎日。今日くらい休ませてよ。こんだけいっぱいいるんだから、良いよね。すやぁ」



「あっ、やべ寝坊したわ。ま、でも他の誰かが鳴ってるっしょ」


 今起きたばかりだからか、眠そうにまぶたを擦りながら他の時計たちを見回した。誰一つ反応する物はなかった。


「って、今日誰も鳴らしてないのかよ?!」


 あちゃー、と右手を頭に当ててうなだれる。


「あー、それはもう僕ら全員クビかもな。うわぁー、やらかしたわー」



 ――その日の夜――


「新しいの買ってきた!これでもう大丈夫でしょ」


 今朝絶叫を上げた声の主は、満足げな顔で袋から新品の目覚まし時計を取り出してセットする。



 ベッドの脇にある小さな机の上にずらりと並ぶ目覚まし時計たち。そこにまた一つ、新しい仲間が加わりましたとさ。

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目覚まし時計たち ぺるしゃ* @persian_123

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