第17話
結局昨日は、お母さんは私と
学校には行った。夜の八時に備えればいいんだから。
「――おかげで、今日寝不足なんだよ」
レインの机の前で私は突っ伏した。レインがため息をつく。
「お前の家、隣だもんな。今まで無事なのが不思議なぐらいだ」
「お母さんも口裂け女にされちゃう」
「あと、お前もな」
「うわーん」
「冗談で泣いてる場合じゃねえぞ? 俺がなんとかしてやりたいけど、怪人ティーチャーが捕まらなくてよ」
今日は引田先生の休みだ。
「休み時間の度に電話してんのに、出やがらねえヴィンセントの奴」
引田先生はあれから怪人キラードSの「エース」としても「ドキラ」としても活動していない。
私が頭をレインの机に埋めている間に、レインは素知らぬ顔で引田先生を捕まえるために電話をかけまくる。短い休み時間内で捕まえられるかな。十回以上かけなおしたから、さすがに先生も電話に出た。
「お、怪人ティーチャー! 俺ら身の危険が迫ってんだけど、どうして電話無視すんだよ。生徒が死んでもいいのか?」
レインの表情は険しくなるばかり。引田先生の声が弱弱しく聞こえる。
〈口裂け女に対抗できる手段なんかない。この件は見なかったことにしたら丸く収まると思う〉
「は? それでも心霊ユーチューバーか! 怪異がお前のすぐ傍で起きるんだぞ?」
〈あんなものは、自分が安全圏にいるからできるんだよ。僕も本物が出たのは見たことがない〉
「いっぱい撮影してんだろうが」
〈そんなものは、後で加工したり、編集したりしてだな〉
心霊ユーチューブは、やらせだったんだ。まあ、普通そうかも? でも、夢怖さないでよ。幽霊だから夢じゃないけど。それでも今までのドキドキ返してってなるし。
「てめー! やらせだったのか」
あ、レイン怒っちゃった。やっぱり、隠れファンなんだ。言えないだけで情熱は本物だもんね。
それからレインは先生とやらせ問題について口論。休憩時間終わっちゃった。私は授業中にレインに話しかけられないし、次の休み時間までもんもんとするしかない。内容は頭に入らない。
曽音田美杏が来るまであと半日か。昨日から寝不足であんまり考えがまとまらないけど、やれることはやるつもり。お母さんが襲われないように台所の包丁は夕食後すぐにタンスに隠す予定。それから、警察にはいつでも通報できるようにスマホ画面は110番の11まで途中で入力したままにしておく。
いよいよ、放課後。引田先生を捕まえるのは本当に難しい。レインはまだ説得できてない。私からも電話した。
「引田先生。ねえ、怪人キラードSって呼んだ方がいですか?」
〈僕はエースだ〉
「はいはい。そうですね。何でもいいけど、口裂け女と生徒が戦おうとしているのに大の大人が逃げるんですか?」
〈見える。見えるよ。僕を説得させようとする魂胆が〉
「見えても構いませんけど。遊びじゃないんですよ?」
先生は君の方が遊びだとぼそっと呟いた。電話の向こうでレンジが鳴る電子音が聞こえる。続けざまに、割り箸を割る音と
〈今からお昼なんだ。じゃ〉
「待って! 先生にしか頼めないんです。目撃者は私達と先生だけなんですから。先生が駄目だったら、この町は終わりですよ。先生はどこにお住まいですか?」
この小さな町でレインがラーメン屋帰りの先生を見つけるぐらいなんだもん、近所に決まっている。
〈この町だけど。それがどうした? 事件はどの町でも起こる。君もあの女が怖いなら、お母さんを説得して逃げればいい〉
「どうやって?」
〈そうだな。本当に命の危険を感じるのなら、もう通報してしまえばいい。警察は110番したら音声を録音している。相手が口裂け警察だったとしても、録音機能ぐらいは生きているだろう。君の死体が見つかれば録音から死亡時刻も割り出せるだろう〉
死体になってからじゃ遅いんだってば!
「ロエリ。先生の言うとおりだ」
レインが決意したような顔をする。
「うん、何か行動に起こさないと。早退してでも」
「じゃあ、やることは一つだろ」
電話ではらちが明かない。先生がレンジで温めたものを冷ますために息を吹きかける曇った音が聞こえる。それを遮るようにこっちから通話を切る。
引田先生こと怪人キラードS「エース」の家に押しかけるしかない。
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