#06 ~ 雷霆の如く
――斬形・
刃を風魔法によって伸長し、遠距離まで斬撃を届かせる技である。
衝撃波みたいなサムシングを飛ばす技ではないので、断ち切れるかどうかは技量次第。
だがその一閃は、黒竜の翼にわずか傷をつけただけで、断ち斬るには至らない。
(クソ硬ェ! 他の魔物と比べ物にならない!)
天歩で爆撃を避けつつ地上に着地し、俺は悪態をついた。
じじいとの修行の成果のおかげか、これまでの魔物で刃を届かせても斬れないなどということはなかった。ここに来てはじめての敗北だ。
「GRAAAAAA―――!」
傷をつけられた怒りか、黒竜はさらに咆哮をあげ、がむしゃらとも思える速度で爆撃を連発する。
それをひょいひょいと避けつつも、ふう、と息を吐いた。
「――やっぱ、使うしかないよな」
黒竜の爆撃は激しさを増し、しかし息切れする様子もまるでない。
どれだけタフなんだ、とため息をつかざるをえないが。
肺の中の空気を思いっきり吐き出し、自分に『冷静になれ』と落ち着かせる。
じいさんがいなくなった後。
俺がこの山に居続けた理由――それはこの山を制覇する以外に、もうひとつあった。
それを試す時なのだと。
――何が、楽しみにさせてもらうだ。
じいさんを、超えること。
いつか俺もああなりたいと、その一心で素振りを始めた。
憧れ、震え、渇望した。
超えたいと、切に願った。
けれど、じいさんはいなくなってしまった。
だから、俺は山を下りられなかった。
山を下りてしまったら、あの場所を離れてしまったら――眼に焼き付いて離れないあの光景が、色あせてしまうような気がして。
息を整える。
じいさんの教えた技――その中には、魔法という技術によって成立するものが、いくつかある。
天歩も、断紡もそうだ。
だが俺はじいさんに魔法を教えてもらったことはない。見て、覚えて、理解する。結局最後まで、じいさんはそれしかやらなかった。
魔法とは何か、詳しい理論を俺は知らない。
だから――この技を完成させるのに、三年かかった。
「――雷霆、解放」
バンッ、と空気が弾けるような音を立てた。
瞬間――一瞬前まで俺が立っていた場所が、黒竜の爆撃によって弾ける。だがそこには、もう俺の姿はない。黒竜の視界にさえ。
俺は、空中にいた。
黒竜の頭上、そのさらに高く。
――錬気、
それがこの技の名前。
錬気とは、いわゆる身体強化のことだ。特殊な呼吸法で己の身体能力を限界まで高める。
そして錬気の発展技、雷霆解放――それは己を雷霆に変え、超速の身体能力を得る、俺のオリジナル。
スピードだけではない、神経、細胞、ありとあらゆる肉体の奥底までも強化する。
極めて繊細な魔力のコントロールが必要で、俺は何度も失敗し、そのたびに死ぬような苦痛を味わった。
「終わりだ」
天歩を解除し、俺の身体が自由落下を始める。
殺気に気づいたのか、頭上に俺を見つけた黒竜が、風魔法を連射。
だが、もはや雷速となった俺の天歩を捉えられるはずもない。
虚空にわずかな雷光を残して、俺の姿が掻き消える。
――殺った。
黒竜の懐に飛び込んだ俺の瞼に浮かんだのは、やはり、あの日見たじいさんの一刀で――。
なぞるように。
落ちるように。
振りぬかれた一刀は、黒竜の首を断ち斬った。
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