第11話:蕪木さん家の事情05


それから無害は蕪木制圧にも声をかけた。


「どうもです……制圧様……」


「我に話しかけるな雌犬の子が! 耳が穢れるわ!」


「ひ……!」


 怯える無害を背中に隠して俺が言う。


「姪に向かってなんてザマだよ蕪木制圧」


「部外者が口を挟むな。平民の分際でつけあがるなよ……!」


「人の上に立つにはあんたじゃ器量不足じゃねえの? もっと寛容が欲しいところだな……。ああ、持ち合わせていないのか。それじゃ仕方ないな」


「挑発には命を賭けろよ平民。お前を抹殺してもこっちには何の不具合は起きんのだぞ?」


「所詮親から遺産を受け継いでいるだけなのに選民思想に陥っているボンボンよりマシだと思うがね……」


 俺と蕪木制圧の視線が丁々発止する。


「で?」


 とこれは殺戮。


「無害ちゃんと藤見さんは何か用?」


「あの……無害ちゃん……トランプで遊ぼうかなって……」


「いいね! やろうやろう!」


 キャッキャと笑う殺戮。そこに、


「待て殺戮! 話はまだ終わってないぞ!」


 水を差す蕪木制圧。


「いいよ、もう。私は制圧と殲滅と無害に等分に遺産を分配する。これは決定事項だから」


「しかしだ。そうすると無害という腐肉にハイエナがたかるぞ……!」


「それは大丈夫。無害には混乱をつけるから。それも私の遺言書には含まれている。混乱なら正しく無害の遺産を管理してくれるでしょ?」


「そもそも無害は雌犬の子だぞ。蕪木家から追放すべき存在だ」


「あまり私の機嫌を損ねない方がいいよ……制圧兄様? 制圧兄様を蕪木家から追放することだって今の私には出来るんだから」


「っ!」


 絶句する蕪木制圧。それから表情を渋面にして、蕪木制圧は、


「話はまた今度だ!」


 退散した。小物臭がプンプンするな。


「無害ちゃん! トランプ持ってきてくれたの?」


「うん……まぁ……こういうのも……あっていいかなって……」


「じゃあトランプしよう。何する?」


「それより……よかったの……?」


「何が?」


「制圧様と……遺産について話してたんじゃ……」


「うん。まぁね。制圧兄様は無害ちゃんに遺産を渡すことに対して納得がいかないみたいだね……」


「無害は……施設にあずかってもらってる身だから……何も文句は言えないよ……」


「だーめ。無害ちゃんだってはっきりと蕪木の直系でしょ? ちゃんともらえる力はもらっておかないと」


「力……?」


「そう。力……。財力とか権力とか……。蕪木の名を背負うならいっぱしの力は持ってなくちゃね……?」


「ふえ……無害は……そんな難しい事……わかんないよ……」


「大丈夫だよ。全て任せておいて。一応のところ私が死んだら混乱を無害ちゃんの後見人にしておくから」


「ふえ……ありがとう……」


「気にすることないよ。それよりせっかく無害ちゃんが持ってきてくれたからトランプやろう? 藤見さんもですよね?」


「ああ……まぁな」


「それから今朝のことは忘れてください」


「言われなくても他言したりしねえよ」


「それならいいんですけど……」


「安心しろ。これでも口は固い方だ」


「でしたら信じることにします。それで? 無害ちゃん……何のゲームやろっか?」


「えと……大貧民とかどうかな……?」


「ルールの調整が必要だね」


「だな」


 そうして俺達は一時トランプに興じた。しかし蕪木制圧か……。アイツをどうにかしなきゃ無害に平穏は訪れないのかもな。そんなことを俺は思った。

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