野良猫は真っ赤な金魚の夢を見る

まこちー

第1話

路地裏に猫がたくさん集まっている。彼らは野良猫。家で飼われている家猫と違い、気ままに生きていたらしんでしまう者たちだ。猫たちはここをアジトと呼んでいた。

「ケネス、こっちへ来い」

低い声で名を呼ばれたのは、キジ猫のケネス。この中では体が一番小さく、年齢も若い。皆より高い段に乗り、胸を張る。彼は背中はキジ猫らしくシマシマ模様だが、お腹は真っ白だった。

「今日からこいつもナワバリを守る一員だ。もう子どもとして扱うなよ」

「「「はい!ベンジルさん!!!」」」

周りの猫たちが返事をする。

ベンジル……真っ黒な体をしている。左目には傷があり、隻眼の猫だ。他にもいくつか傷がある。 ケネスと違い、体が大きく、ところどころ毛が抜けていた。

野良猫たちには名前はない。だが、便宜上のために自分で考えた名前を名乗っている。

「ケネス、さっそく狩りに行こう」

「どこに行くんだ?」

「港の方!」

「港?まさか海に潜るのかよ!」

「違う違う、漁師が魚をくれるんだ。人間は悪い奴らばかりじゃない」

足に傷を負っている黒ぶち模様の猫はジェフ。彼は幼い頃は人間に飼われていたが、劣悪な環境に耐えきれずに脱走したという。最初のうちはかわいがられていたが、ある日突然飼い主が消えてしまい、次の飼い主に殴られたのだ。足の傷はそのときのものだった。

「俺、人間の見分けは上手いんだ。漁師にもいろいろいる。俺らを殴るやつがいたらすぐに知らせるよ」

「そこまで言うなら行くけどさ、なんだか思っていた狩りじゃねぇなぁ」

「ははは、実際そんなものだよ。ベンジル、君の分の魚も取って来ようか?」

「俺はいい。魚は食わん」

「え?そうだっけ?ベンジル、魚苦手だっけな……」

「いいから行こうぜ!

ベンジル!行ってくるからな!」



港。たくさんの船が泊まっている。

「人間がたくさんいるぜ?本当に大丈夫なのか?」

「……あの人の近くに行こう。あの茶髪の男の人は優しいから」

「ゲッ!?すげぇ怖そうな感じだぜ!?ピアスとかネックレスとかゴツすぎんだろ!な、殴られそうだ」

ケネスは後ずさるが、ジェフは悠々と茶髪の人間に近づいた。

「にゃ〜ん」

「お!!また来たのか、お前。ジェフだよな!」

怖そうだった男はジェフを見つけると屈んで笑った。

「今日も魚が欲しいのか?売り物にならねぇやつならやるよ。どうせ俺の夕飯にするだけだから、余ったのはお前にやってもいいし」

「にゃ!!!」

ジェフが転がってお腹を見せる。黒い模様が点々とついている。

「かわいいなぁ。俺の家で飼ってやりたいんだが、そんな金はねぇからなぁ。悪いな……」

「そんなこと言わないで。俺は君に会えるだけで嬉しいよ」

ジェフはそう言った。猫語だからケネスにしか伝わらなかったが。

「よし、この小さい魚をやるよ」

男が立ち上がって網から魚を取った。小さいと言ってはいたが、売り物にならない大きさというだけで猫からしたらかなり大きいものだ。

「なぁあん」

ジェフがケネスの方をちらりと見る。おずおずと物陰から出てきたケネス。それを見て、男はさらに笑顔になった。

「仲間を連れてきたのか!お前の子分か?小さい猫だな。お前にも魚をやるからな。ちょっと待ってろよ」

「ほらね、この男の人はすごく優しいでしょ」

ジェフの言葉に頷く。先程釣れたばかりの魚はキラキラと輝いていてとても美味しそうだった。

「あんな綺麗な魚、本当にもらっていいのかよ?」

「くれるって言っているんだからいいんだよ。この人は俺の名前を呼んで可愛がってくれているからね。信頼出来る」

そうだったのか。ジェフという名前はこの人間がつけたのか。

「この魚ならいいな。咥えて持って行けよ」

「にゃっ」

「にゃ…」

猫二匹は魚を咥えてアジトへと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る