第38話 『きらー・きらー!』
「闘う前に、僕は聞きたいことがあるんだ。」
保中が問いかける。
「どうして、あの夜君は逃げたの?僕達あんだけ仲良かったのに。」
「…アンタがイカれたと思ったからや。下手を打てば、話し合いとやらをする間もなく殺される、と考えてな。」
「なるほどね…でも、ちょっとだけ違うかな。」
「…ほう?」
「僕は君にもこの快楽に素直になって欲しかったんだよ。こんなに素晴らしいことを、僕より遥かに才能のある愛蘭にも、僕の大好きな愛蘭にも、味わって欲しいと思ったんた。君は見る限り、全く才能が衰えていないね。久しぶりの人殺しはどうだったかい?」
「もう殺した前提やねんな、状況が状況やし妥当やけど。で…質問の答えやけど、ハッキリ言うで。」
宮藤は血液パックを破って血を構える。
「つまらん」
「君は昔からそうだった。自分の楽しいことが最優先、けど必要なことはしっかりやっていた。必要だと思ったら躊躇なく行動する力、身体能力、頭の良さ…でも確かなことは一つ、君は僕と同じさ。」
(耳が痛いな。あのイカレシスターに勝ったのも殺しの才能全開放でやったし…躊躇なく行動するとか言われとるけど、これだけは例外やった。ヤクと同じや、一回やってまうと、
「そうかもしれんな、まぁ…」
保中が水を生成して構える…
「関係ねぇだろ、くたばれ。」
血の雨が、保中に降り注ぐ。
「君を超えることが、僕の人生最大の試練のようだ。…そうでなくちゃね。」
水の弾がこれを相殺していく。
(出力は同じ…ずっと撃ち合いしても仕方ないね。使ってみるか。)
「もう射撃戦も飽きてきたでしょ?面白いことしようよ。」
そう言うと大きな波が、宮藤に襲いかかる。
宮藤は側面のビルの窓枠に手をかけて、どんどん上へと上がっていく。
下から波が襲いかかってくるも、宮藤の逃げるスピードの方が速い。
「…ッ!?」
保中は避けるも、頬に傷がつく。
宮藤の血の弾丸が、後方から穿ったのだ。
(何ッ…!?普通に撃ったならいくら何でも気づくはず…)
保中がふと見ると、後ろの交通標識に血がついている。
(なるほど、自分が後ろに撃った血を標識を起点に反射させて、自分に命中させたということか。一つしか来なかったのは…おそらく津波に押し流されたのだろう。)
しかし宮藤の逃走も、やがて限界を迎える。
波が、とうとう宮藤を押し潰した。
(まずい!流されて溺れる…!)
波が渦潮となり、宮藤の体を回していく。
壁などあちこちにぶつかっていく。
渦潮が、だんだん赤く染まっていった。
(よし、捉えた…!そのまま叩いて、溺れさせろ!)
─10分後、保中は渦潮の勢いを少し弱めて、宮藤の生死を確認する。
(僕の…勝ちだッ…!)
宮藤の体は、血塗れだった。
渦潮を解く。
「悲しいね…君には僕と並んで歩く資格があつたのに。いまはただ…」
「その先はえぇわ」
血の弾丸は、水の盾に防がれた。
「…バカな!なぜ生きている!?」
「体の周りにつけた血液を凝固させた。言わば血の鎧ってヤツや。」
「そうか…ならもう一度!」
保中は目を疑う。
自分の体のあちらこちらから、出血していることに気づいて。
「でその血液凝固やねんけど、血液型の違う血液を輸血したらなることがあるらしいねん。ギョーシューソってのが関係あるらしいねんけど…それがたっぷり入った弾のお味はどや?」
「ぐっ…!はぁ…はぁ…こんな所で僕は止まれないんだよ…僕は楽しむんだ…この世の全てを…!暴食の世界は弱肉強食!僕の楽しみが世界に肯定されるんだ!」
巨大な津波が、宮藤を襲う。
「肯定されないと人生を楽しめないんか?ドアホォ!」
水が宮藤に纏わりついて、どんどん押し潰していく。
(直接攻撃ができないなら…水圧で押し潰す!)
血がそれを押し返していく。
最後の手段は、容易く破られた。
「駄目か…ぐっ…」
保中は血を吐く。
「最後に一つ…頼みがある…僕は…間違っていたのか…?」
「正解もクソもないやろ…ただ、ウチはアンタのことを尊敬しとったで。」
「え?」
「確かに成績はウチの方が上やった…けど、ウチは知っとるで?訓練でウチに勝つためにコッソリ必死に努力してたやろ。好きなことしかでけへんウチには、到底真似でけへんことや。」
「そう…か…」
(僕は…何をしたかったんだろ?殺すことが楽しかったはずなのに…あぁ…そうか…僕は…本当は…)
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