第29話 『きらー・とれいん!』

 煙が晴れた頃、ぐしゃぐしゃになった古戦場に合理が現れる。

(…一人逃しちゃった。死体からして、逃げたのは多分話しかけてきた女性の方だと思うけど…。まぁこの爆撃なら流石に無傷じゃ済まないだろうし、焦らず行こう。)








「さて、このままお二方を始末…と言いたい所なんですが、少し場所を変えましょうか。」

 そう言うと二人は車のボンネットの上に乗り、走り去っていく。

 ブイィィィィン

 ─と同時に、米沢達はドローンの飛行音を聞いた。

「あれ、まずいんちゃうか?」

「そうだな」

 米沢は宮藤をお姫様抱っこしてジェシカ達を追う。

 ドローンもそれを追って、爆弾を落としてくる。

「さっきも思っとったんやけど、おんぶならまだしもお姫様抱っこて。キュンて来たら責任取れんのか?」

「来ねぇだろうよ」

「そりゃわからんやろ!王子様は普通の女の子なら憧れるで」

「普通ではねぇだろ、お前」

「まぁその通りなんやけど…、相手の能力がわからんわ。スーツを爆発させたり、車や電車を動かしたり…」

(露骨に話逸らしたな)

 暫くすると、ドローンの追撃が止む。

 爆弾がどうやら切れたようだ。

 その頃には、4人は交通の激しい交差点に来ていた。

「あのドローンはいい働きをしてくれましたね…それじゃあ始めましょうか。」

 ジェシカは懐から指揮棒を取り出す。

「『破滅的狂想曲カタストロフィック・カプリシオ』」




 木島良輔、35歳独身。

 普段は土木建設業の現場監督として働いている。

 今日は仕事の疲れを癒やすため、キャンプ場へ行く予定だ。

(ソロキャンもいいけどなぁ、可愛い女の子と一緒にキャンプ行きてぇよなぁ。ナンパやってみよっかな…)

 指揮棒を縦に振る。

 車が向きを変え、空へと飛び上がった。

「な、な、何だよこれ!何がどうなってんだよこれ!」

 車は米沢達に向かって行く。

 指揮棒を横に振る。

 木島がドアを開けると、他の車も同じ方向に向かっていた。

 慌てて木島が車から飛び降りる。

「あぁなんかこれ嫌な予感するで!」

「奇遇だなぁ!俺もだ!」

 正面からの車は、上がって回避する。

 次に下の2方向から来る車は、ジェシカへと向かって行くついでに振り切る。

(スピードは俺の方が上だが如何せん数が多い。詰められる可能性もあるな…)

「米沢はん、上!」

 上を見ると、大量の車が米沢を狙ってくる。

 米沢は下に逃げようとするが、そこからも車が迫って来た。

 更に正面からも後ろからも車が向かってくる。

「ヤバい…囲まれた!」

「下手に近づいたらあかん!爆発させてくるかもしれんで!」

「なら…!」

 米沢は自分の上着を落とす。

 ドグァン!

 それが下の車に触れた瞬間、上着が爆発した。

 すぐさま米沢達は急降下していく。

 3つの車は米沢達を追ってくるも、普通にやって彼に追いつけるはずがない。

「よし、狙撃できる距離に来た…けど、ブラックホールが邪魔だな…」

 武丸は米沢のいる方向に合わせてブラックホールを展開していた。

「ほなら接近戦しかないんちゃうか?ちょっとずつやけど近づいていけてるし。」

「ブラックホールが怖いが…まぁそれしかねぇか。」




 ─少し後、米沢は武丸の間合いまで来ていた。

「アイツらはもう射程範囲内だぜ!吸い込むか?」

「…いえ、焦ってはいけません。狙い通りの場所に誘い込めたのですから。」

「狙い通りの場所って…あれは…そういうことか。」




「ところであいつが吸い込んできたらどうすんのや?」

「ギリギリで振り切って上に逃げてパチンコ玉」

「行けんのか?」

「さっき見た感じだといけんだろ」

 ガタンガタンガタン…

「…なぁ米沢はん、ここって電車の車庫やろ?」

「まんまと誘い出されたってことかぁ、どうするぅ?見たところあと30秒ってとこだ。特急や新幹線は車とは比べ物にならない速度…流石に避けるのはキツい、が…」

「策はあんのやろ?」

「どーしよ」

「…えぇわ、今思いついたからな」

 ─10秒後、特急がこっちに飛んでくる。

 他の列車も、回り込んでこちらを狙ってるようだ。

「囲ってくるってことは…一回特急避けてくれへんか?」

「やってみる!」

 迫りくる特急を…米沢はギリギリでかわした。

(ここしかない…!)

 宮藤は血の刃で特急の窓を切りつける。

 窓ガラスは割れて、車両の内外に飛んでいった。

「米沢、ハウス!」

「は、ハウス!?」

 特急や新幹線が、四方八方から迫ってくる。

 ガシャッ、ドオオオオオオオオン!








「ふう…ここまでやれば流石に奴らも生き残れないでしょう。」

 衝突の少し後、ジェシカ達は依然ドライブをしていた。

「愚かなる仔羊達に祈…」

「おい…!前を見ろ!」

 前方に、宮藤がいた。

「馬鹿な…何故あの爆発の中で生きて帰れたのですか!?」

 ジェシカはUターンしようとする。

 武丸もブラックホールでガードしようとする。

「待て…あの男は!?」

 遅かった。

 後ろにいた米沢の弾が、車体に炸裂する。

(窓を通り抜けて車窓から脱出する…、単純な計略だったがこうも上手くいくとは思わなかったぜ。体のあちこちは無理やり通ったんで痛いんだけどな…)

 車は爆発、炎上した。

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