第24話 『いぇす・りぐれっつ!』

「…行くぞ」

 冥崎は一気に渋谷に接近する。

 保中も水弾を大量に撃つ…が、それは刀を濡らしただけに終わった。

 渋谷は壁に背を向け、刀を構える。

 そして近づいてきた冥崎を斬る。

(…っ!?おかしい!)

 刀は確かに冥崎の右腕を切断した筈だった。

 しかし、冥崎の手にはダメージがない。

 水をかいた時のように、まるで体自体が避けていく感触を渋谷は感じる。

「終わりだ」

 冥崎の手が渋谷に触れる。

 その瞬間、渋谷の首から上が破裂した。

「…当たりだったな。」

「お疲れサマンサー!いやぁ、役に立てなくて面目ない。」

「相性の差だ。どれだけ強力な力でも、相性と言うものは必ずある。」

「いやぁ、冥崎さんは謙虚だねぇ。あ、今日の飯はガパオライスでお願いしやす!」

「うむ、任せておけ…」









(えっ…!)

 の反応が、消えた。

 殆ど動かなかったのに、消えた。

(な、何かの…間違い…だよな?そうだ、アイツは位置交換の契術を持っている!そう簡単にやられるわけが…)

 暫く歩くと、首のない渋谷の死体を見た。

 冥崎と保中は、もういない。

「あっ、あっ…、嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!」

 なまじ頭が良いだけに、合理は事の全容を大まかにだが理解する。

「何でだよ!何で僕はまた失うんだ!何で僕から誰もいなくなるんだ!何で僕ばかり理不尽な目に…、いや僕のせいだ。僕が巨人討伐に向かわなかったらこんなことには!僕の判断ミスだ…、僕はまた、間違えたんだ…!」

 死体がの姿と二重に見える。

 雨が降り始める。

 俄雨にわかあめが土砂降りになってもも、合理は立ち止まっていた。

「…落ち着いてくださいませ。」

 マモンの声が聞こえる。

「ごめんね、ダメなんだ…」

「あなたにはまだ、私がいます。あなたの力もあります。それに、貴方は幸運じゃないですか。」

「幸運…?」

「だって、戦えば取り戻せますでしょう?」

 合理はハッと目を見開く。

「そうだよね、自分のミスは、自分で取り返さないと…どんな手を使ってでも。」

「ふふっ、貴方なら立ち上がってくださると信じておりました。…とりあえず今日の所は休みましょうか。」

 合理はのそのそと、残っているかは怪しいが拠点へと戻っていく。

(やっと、彼の『強欲』が爆発しましたね…。将来性を見込んでポテンシャルで選んで良かったです。期待…してますよ?)








 崩れたビルと街の境界線。

 そこに男一人と女四人がいた。

「同盟を組んだ!?」

「せや、まぁしゃあないやろそれしか生き残る術あらんかったんやし…」

「という訳でよろしくね!乱流くん!綾ちゃん!」

「よろしく、いいじゃん!仲間が増えたってことだよね!」

「一時的だしいつ寝首を掻かれるか分かったもんじゃないけどな…まぁいい。それより目下の問題がある。」

「何?」

「俺んちが潰れた。」

「あちゃー…、ウチの家も南の方やから多分潰れとるわ。」

「私も同じ…拠点なくなっちゃったね。」

「なら私の家に…」

「ホテル借りるか。金は…まぁ3日ぐらいなら足りるだろ。」

「あ、ホテルなら安くていい所あるよ!北の方だから大丈夫だと思う?」

「十文字さん、そこは…」

「本当か?…背に腹は代えられねぇ。案内してもらうか。」








 5人はホテルへと辿り着いた。

 ホテルの前には『LOVE』という文字が、紫色に、官能的に光っている。

「…ラブホじゃねぇか」

 十文字が思わず突っ込む。

「えっ、ホテルってヤる所じゃないの?」

「風評被害も甚だしいやろ…、他はないんか?」

「この辺ホテルないよ?」

「あーそうかよ、じゃあここに泊まるしかねぇか。」

「了解、5人部屋でいい?」

「…個人ごとに分けるもんだろ」

「ここラブホだしそもそもお金あるの?」

「分かった、じゃあ陣営ごとだ。」

「うん…もしかして、乱流くんって童貞?」

「どう見てもそやろ」

「はいはいそうそう、龍崎と倭島が話から置いて行かれてるからこの辺にしてくれ。」

「え、ちょっと待って下さい!そもそも私と米沢さんは未成年じゃないですか!?」

「ダイジョブダイジョブ!ここの人みんな顔馴染みだし肉体関係もあるし!」

「そういう問題じゃねぇだろ…」

「…」




 605号室、倭島は十文字に話しかける。

「やっぱり…私はあの三人を信用しづらい。」

「裏切ると思ってるの?それはないんじゃない?みんなそこそこ慎重そうだし。」

「慎重なのはそうだと思う。…けど、皆銃爪ひきがねを引くことに対する躊躇いがないと思う。用済みになった瞬間、真っ先に狙われるのは私達。」

「うーん、そういうものかね…。そもそも敵になったのも成り行きだし…、私はもう少し人間の善性を信用したいけど。」

「わかってる。十文字さんの考えは最大限尊重したい。でも万が一の時の為に、独断で行動する許可をください。」

 倭島が頭を下げる。

「そ、そんなことしなくていいって!」

「何度でも言うけど、私は十文字さんを最大限尊敬している。親にさえ見捨てられた私を、見てくれたのは十文字さんだけだから。だから私は、十文字さんを護りたい。」

「…まぁ言わないと伝わらないみたいだし言うよ、私は君を最大限頼りにしてる。だからそんなこと一々許可取らなくていいよ。お好きなように。」

「…ありがとう」








「戦闘経験を積めば何か変わるかと思ったが…、何か掴んだものはあったか?」

「特に何も…」

「いいや、すっからかんや」

(…ダメだ、一定以上は上がってもそこからがつっかえる。アスタロトに聞くか?…いや、これが精神的な何かが関係していた場合、それは寧ろ遠回りになる。もう少しなんだ…もう少しで…。)

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