第12話 『ごうり・ぐりーど!』
「あっ…あっ…」
合理は自らの罪を思い出す。
「どう?このまま認めるなら死…」
「違う」
「へぇ」
「僕は殺してな…殺して…殺して…」
「まぁ私が現れてる以上、貴方は恥知らずにはなれないわよね。とりあえず、検察官に詳しく説明してもらうわ。」
そう言うと、検察官の元に書類が現れる。
「ギギ…2020年6月4日午後8時46分…被告人合理帝は方妙大学病院の手術室で、当時恋人関係にあった姫路心氏を刺殺した…検察側はそう主張します。」
「これに対して被告人は何か弁明はあるかしら?」
「僕が…僕が…」
稲葉は、それを眺めていた。
(今ハートの女王は死刑と言いかけた。つまりこの裁判での敗訴は死を意味する。このまま裁判が進めばおそらく強欲陣営を排除できる…けどそしたら他で闘ってる仲間が危ない。他に眷属を人形化させてる可能性もあるから、ここは…)
稲葉は弁護士側席に移動する。
「被告人合理帝の弁護人として、この主張に質問したいことがある。」
「あらあなた喋れるのね?まぁいいわ、聴いてあげる。」
「まず、彼がもし本当に殺人犯なら
「証…拠は?」
「貴方だって出してない。ならここはそういう裁判。」
検察官は黙り込む。
「弁護側の異議を認めるわ…えぇ、これは医療ミスよ。事実としてはね。」
稲葉はホッと一息つく。
(無茶苦茶な裁判だったけど、案外早く終わりそ…)
「その上で言わせてもらうけど、合理帝は死刑にする予定よ。」
「は?」
合理はずっと塞ぎ込んでいる。
「だって…合理自身は、罪を認めようとしているもの。」
(そうか!おそらくハートの女王は合理自身の心!その心が、自罰感情に呑まれていってる!)
「僕は…僕は…」
合理はまだ固まっている。
「違う。貴方が殺した訳ではない。貴方は彼女のために生きるべき。」
「あら、でも最後は殺すのでしょう?」
「ぐっ…!」
(合理に罪を忘れさせるなら簡単な方法はある…。姫路の記憶を思い出すのを私の契術で禁止すればいい─でも本当にそれでいいの?ハートの女王が死刑宣告をするのは『救い難き者』と言っていた。それは一体…?) 「僕の…僕のせいなの?」
稲葉はしばらく考えた後、口を開く。
「─情けない。」
「あら?」
「自分が悪いかどうかも決められないなんて、情けない。」
「ッ…!」
合理が目を見開く。
「私は貴方をどう弁護すればいいかわからない。だから投げ出すことにした。ってか最初から自分のお裁きは自分でやりなさい。」
「でも…」
「でもじゃない」
合理は、未だに時々あの日の殺人を夢に見る。
あれは明らかに、自分のミスだった。
なのに、彼は罰されなかった。
─同じ手術に参加していた先輩の責任となったのだ。
「本当にごめん」
彼の涙が、合理の心を突き刺した。
罪の意識に耐えられなくて、合理は責任から逃げ出した。
首を吊ったと聞いてから、先輩を責めたことを、後悔した。
そしてまた、逃げ出した。
─でも、取り戻したいという気持ちは心の中で
(僕はまた…逃げるの?)
吐きそうになる程胸が苦しい。
息は、相変わらず早い。
考える、考える、考える、考える。
やがて、ハッと気づく。
(そうか…僕の…本当の罪は…)
法定の静寂を、破る。
「姫路心の死は、僕に責任がある。」
「じゃあ、貴方は死刑判決を受け入れるということでいいかしら?」
唾を飲み込み、口を開く。
「─いや、僕は生きるよ。」
「ッ…!」
稲葉は合理に釘付けになる。
「僕はこの罪を背負って生きる。僕の理想の世界は、死や病や老いのない世界。そして、死んだ心と先輩を取り戻す。…必ずこれを遂行する。」
女王が微笑む。
「貴方、なかなか『強欲』ね。」
「強欲の魔王だからね。全部、貰うよ。」
カンッ!カンッ!カンッ!
ハートの女王がガペルを鳴らす。
「コホン。それでは被告人、合理帝に判決を言い渡すわ。」
─永遠にも思える程の時が流れる。
「判決は有罪。よって死刑。
─執行猶予は、この闘いが終わるまでよ。」
稲葉は溜息を吐いた。
検察官は慌てふためいている。
合理は、真っ直ぐ女王を見つめていた。
「ではこれにて閉廷!検察官のことは好きにするといいわ。さて、最後に…」
女王はゆっくり合理に近づく。
「私のこと…もちろん忘れないわよね?」
「はい」
即答だった。
法廷が、光と共に消えていく。
消えゆく世界の中、合理はひたすら前を向く。
女王が、初めて心の底から笑っているような気がした。
二人が目を覚ますと、元の場所に戻っていた。
ツインテールの人形が辺りを見回す。
「開─」
「万物創造」
パァン!
銃弾が人形の口を貫く。
合理の手には、拳銃が握られていた。
「行こう」
省みず、言い放つ。
「御意」
(合理が死ななかったのはいい。けど…目つきが、変わっている。一気に警戒対象になった。今の内に対策を考えておくべきか。)
二人は、階段を上っていった。
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