第9話 『びるでぃんぐ・おぶさーばー!』
「どうだ伽堂?一旦現状を報告してくれ。」
卯月はモニターにかじりつく伽堂に話しかける。
「二日目に入ってからの動向でありますね。まず、眷属2人が倒されました。倒した二人組はおそらく魔王入り。眷属らしき眼帯ゴスロリ少女は粘着力のある糸を操る契術持ち、魔王らしき赤毛のセーター女は電撃を操るものと、もう一つは不明であります。長く息を止められていたのが手掛かりになるでありましょうか。」
「ありがとう。そろそろ動くことも考えているのだが狙い目はあるか?」
「さっきのコンビは何気に無傷でありますからねぇ…、眷属らしき女が一人彷徨っているでありますがどうなさいますか?」
「犬神の挙動から考えて、おそらく奴の眷属だな。…大量殺人犯め。鉢合わせになる可能性はあるが…、車田と菅文を送るか。」
「卯月様はいかがなさいますか?」
「休むよ、来たるべき時に備えてね。」
「…来たるべき時、とは?」
「このゲームは性質上どうしても魔王同士の闘いが終盤発生する。その時にガス欠だなんて笑えないだろ?」
「なるほどであります。」
「おい車田、菅文!指定の場所に向かってくれ。ホシが動いたら伽堂が指示をする。」
「「了解!」」
マフラーを首に巻いた目に隈のある青年と質素な服を着た老婆が、部屋から出ていく。
「あっ、」
伽堂の顔が青ざめる。
「どうしたんだ?」
「それが…」
「いやぁ、まさかずっと監視してたの?感心するなぁ。」
道路の上の『目』の真ん中には孔が空いていた。
「は、何これ!これもしかしてストーカーってヤツ!?」
ツインテールの女の顔が赤くなる。
「江戸ねぇ落ち着いて。」
「落ち着いてられるかっつーの!着替えとか見られてたらどうしよ…」
「感謝する保中。まさか我が気づかぬとは…面目ない。」
「お構いナックル!」
「全く、近頃は皆環境に対する意識が低すぎる!そう思わんかえ?」
菅文と呼ばれた老婆は、口を開くといつもこう言う。
「おっしゃる通りです…」
(…帰りたい。)
「この間ようやくポリ袋が有料化されたのだえ!廃止じゃなくて有料化!石油の枯渇まで一刻の猶予も無いだろうに…」
「そうですね…」
(結構古い話題ですよそれ。)
車田はひたすら菅文の愚痴を聞くことに辟易していた。
「それで、次はどこへ行けばいいのかえ?」
菅文が突如思い出したかのように伽堂に尋ねる。
「一つ前の角を右に、2つ目の角を左に曲がればすぐそこにいるであります。」
「ありがとうだえ、早速向かうえ」
真っ直ぐそのまま道を歩く。
少し歩くと角が見えてきたので、2人は角を曲がる。
暴食の軍勢が、そこにいた。
「あっ」
「!?」
真っ先に反応したのは菅文、冥崎、保中の三人である。
菅文は手から大樹を生み出して四人を分断し、あわや致命傷を与えようと試みる。
冥崎は樹を何事もないようにどけて、菅文に接近する。
同時に保中は菅文を水の弾で撃つ─車田がそれを庇った。
(無傷…!)
菅文はその隙にさらに樹を拡げる。
─眷属の反応が、一人消えた。
「一人やられた!まずい!あの老婆を始末せねば!」
「…!」
車田は菅文を庇うように立ち塞がる。
「あの男は私が担当する。お前は老婆を始末しろ!」
「OK牧場!」
「きえぇぇぇぇぇぇ!!!!!緑の怒りを思い知れぇぇぇぇぇ!!!!!」
ドドドドドド…
菅文は樹木を張り巡らせながら保中から逃げる。
保中は全て避けれてはいたが、菅文に追いつけずにいた。
(上手い…飛び道具に反応できるよう的確に距離を取りつつ攻撃してきている。なら…)
ジャァァァァ!!
保中は大量の水を生み出して菅文に放つ。
樹木の壁の隙間を塗って水が菅文を襲う。
「おのれ地球の敵め、だが考えが甘いえ!」
菅文は大量の樹木を生み出してその中に入りこむ。
水はギリギリ間に合わず、樹にぶつかる。
「へぇ、僕が押し流すことしかできないと推し量るのかい?」
保中は水を剣のように固める。
「─一瞬、だよ。」
ザンッ!
水の剣が大量の樹木を横薙ぎにする。
間一髪斬られなかった菅文は驚いて空を見上げる。
「な、なんじゃぁ…!」
「これは消耗が大きいから使いたくなかったんだけど…、まぁそれで死んだらしょうもないからね。」
菅文は慌てて樹木を新しく創造しようとしたが、遅かった。
ダダダダダダッ!
隙間から無数の水の弾が入り込む。
─切株の中には、赤い水溜りと死体だけがあった。
「お仕事おーしまい!さぁて、向こうはドーナッツてるかなぁ?」
(さて…やつの相手をするとは言ったものの、まずは男の能力を見抜くことが先決だ。先程の攻撃では体にはダメージはなかった。単純な物理耐久能力が今の所本命か…)
車田はナイフで冥崎に斬りかかる。
「ナイフか…近接戦では悪くないが、我の契術の前ではカモだ。」
冥崎はナイフに触れる─その瞬間、ナイフが曲がり車田に突き刺さ…りはしなかった。
ナイフは車田の体をすり抜けて行く。
「…そういう契術ね。」
ボンッ!
車田は冥崎の頬を直接殴る。
冥崎はよろめくも、すぐ体制を立て直して左手を車田の手に触れさせようとする。
が、また手は車田をすり抜けた。
ブチィッ!
「ぐっ!?」
車田の体中の腕が抹消された。
「あ、ダブった場合は僕優先です。」
(腕はくっつく、が…。奴と我では相性が悪すぎる。加護もまだ準備が整って…)
その時、車田のズボンから着信が鳴る。
次の瞬間、車田は撤退していった。
「深追いは危険、か…」
30秒程経つと、保中が現れる。
「お疲れーカツカレーっておやぁ?左手がいないで。」
「問題ない。ナイフで十分補える。」
そう言うと、左手の残りとナイフを合わせる。
それは混ざり合い─やがて左腕になった。
「そろそろそぞろに生き残りを迎えに行かなきゃ。どっちが生き残ったの?」
「それが…」
「ん?」
「もう一人も…消えた。」
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