第4話 『よねざわ・めらんこりー!』

「全てのオカルトが…現実に…!」

 龍崎は米沢の理想の世界を想像した。

(全て…ってことは、魔術や宇宙人、神や悪魔までいるってことだよね。その方が…楽しいかも。)

 もう龍崎は皮算用に夢中だった。

「すごい!えっと…すごくいいと思います!」

「だろぉ?俺は平凡な人間だ。平凡に産まれて平凡に生きて平凡に死ぬ…そんな人間だ。どんな事をしてもそれは変わらなかった。それが嫌で、嫌で、せめて死に方だけは平凡じゃないようにしてやろうと思ってたら…アスタロトが来たんだ!」

 米沢はおもちゃを買ってもらった子供のように目を輝かせて話す。

「俺は契術や加護を貰って、しかもこんな楽しそうなゲームに参加することができるようになったんだ…。これまでの不幸は全てアスタロトに会う為だと、心底思ったよ。」

「いやぁ、そこまで言われると照れちゃうッスよ…」

 アスタロトは頬を赤らめて満更でもなさそうにしている。

「はい…私も楽しいです…!」

「龍崎ぃ、だっけ?仲良くなれそうで何よりだ。さぁて、そろそろ真面目な話をするぞ。」

 米沢は声のトーンを変えた。

「目下の目標は眷属の回収だ。足の傷が悪化するとダメだから、隠れ場所で待ってろ。ついてこい。」

「はい、わかりました!」

 この先どんなことが待っていても、それは、きっと、楽しいこと。そう思う二人だった。

(いやぁ、見てて飽きないッスねぇ。特に…)

 アスタロトがクスリと笑った。








「これで一人か。なかなかの契術だったな…」

 かつて人だったものを後にして、太った老爺は歩いていく。

「あ、冥崎さん終わった?」

 そこに眼鏡の少年が駆け寄って来た。

「あぁ、今回はお前達の助けはいらなかったな。」

「しかしまさか世界的料理人の冥崎さんが仲間だなんてねぇ。なんか美味しいモノ作ってよ。」

 そう言い放つのはツインテールの若い女性だ。

「僕エスカルゴがいい!一回食べたけどあれ美味しかったもんね!」

「私はレバニラかなぁ。冥崎さんお願いできる?」

「構わん。─保中はどうする?」

 保中と呼ばれたその男は、静かに笑って言った。

「鯛焼を食べたいやき」

 ─空気が、しばらく凍りつく。

「この空気どうしてくれんの?」

 ようやくツインテールが沈黙を破った。

「あれ?やっちゃった?いやぁ〜すいま煎餅!許してクレープ!」

「アホ中は放っといて早く食べに行こうよ。」

「ちょ、名前もじって遊ぶのは阿寒湖!」

「いやあんたがそれ言う?」

 少年ですら、保中に対してぞんざいな態度を取っていた。

「ギャハハハ!オモシロイ!オモシロイ!」

大きな『口』はこの洒落を心底気に入っていた。

「あんたセンス悪いわね…」

「うー、ドイツもこいつもイタリアも僕の味方はベルゼブブさんだけだ…」

冥崎は騒いでいる三人と一体を見て溜息をつく。

「─全部作ってやる。眷属も3人集めた。流れは僅かにだが我らに向いている。慢心がなければ、勝利は十分可能だ。行くぞ。」

 四人は路地裏から、街の表に戻っていった。

「勝つのは我ら、『暴食』だ。」








 ゲームの舞台である方妙町のちょうど真ん中には交差点がある。

 男が、そこに二人対峙していた。

「羽田国成…知っていますよ。若くしてIT企業を立ち上げて大成功したエリート中のエリートだそうですね。」

 無精髭を生やした大漢が語りかける。

 話しかけられた羽田という相手は、髪を赤に染めて、サングラスと上等なスーツを身につけていた。

「そのとーり!で、なんの用だい?あ、要件は一言で頼むよ。僕ちゃん忙しいもん。」

「私の名前は根岸好助、嫉妬の眷属。貴方を見つけて殺しに来ました。」

「へぇ…。言っとくけど、僕ちゃん強いと思うよ…?」

 羽田が地面を踏みつけると、地面が少し凹んだ。

 次の瞬間、羽田は猛烈な勢いで根岸に飛びかかっていった。

「そういう契術ですか。なら、楽に勝てそうです─ゴロゴロ」

 根岸が呟いた瞬間、根岸の体から電撃が放たれる。

 羽田は急いで地面を蹴って飛び避けようとした。

「メラメラ」

 根岸の左手から火球が飛ぶ。

 空中で方向転換することはできず、たちまち羽田は火に覆われた。

「があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ドロドロ」

 羽田の近くの地面が融けていく。

 のたうち回ることも立つこともできず、羽田はただ叫び声を挙げている。

「美しいですね。社会的立場を盾に調子に乗った人間が苦しむ姿は。このまま眺めていましょう。」

 冷たくそう言い放つと、羽田が絶命するまで根岸はひたすら、焚き火に当たっていた。







(…急がないとまずい。)

 強欲の魔王、合理帝は焦っていた。

 ついさっき眷属の反応が一つ消えたからだ。

「安心してください。一人目はすぐそこでございます。」

 アラビア風の服を着た褐色の、露出度の高い女性が合理を宥める。

「それもそうだけど…。でもマモン、二人目までやられちゃったらかなり不利になっちゃうよ。そしたら…」

「ネガティブシンキングは体に毒でございます。気を強くお持ちになるよう。」

 反応によるとこの河川敷の奥に一人目の眷属がいる。

 もうすぐなことはわかっていたが、どうしても彼の心のもやは消えなかった。

 なので眼鏡を上げて無理やり自分を落ち着かせようとしていた。

「あら、どこに向かっていらっしゃるのですか?」

 急に声が聞こえる。

 曲がり角から、上品そうな女性と若い警官の男が現れた。

「国家権力参上!職務質問だぞ!答えないとどうなるかわかってるよなぁ!」

(間違いない、二人共やる気だ。一旦逃げて仕切り直しにしたいけど…)

 一歩、後退あとずさりをした直後、合理はとある考えに至った。

(でももし僕が逃げた後、僕が向かっていった方向に彼らが行ったら?─発言からして可能性は十分にある。)

 歯を噛み締めて下げた足を元に戻す。

「─退いてくれないかな。さもないと…君達を傷つけることになる。」

「ブッ…ギャハハハ!!ヒーッヒーッ!」

 そう言った瞬間、男は大笑いした。

「なぁ統城!今の聞いたか?」

「えぇ、聞きました。おめでたいことですね。」

「…何が言いたい?」

 統城と呼ばれた女が答えた。

「だって…傷つけるも何も、これは殺し合いですわよ。」

 ─戦いが始まった。

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