第3話 『あんだーぐらうんど・だいばー!』
龍崎綾は朝通った道を引き返していた。
大量の死人が出たことにより学校は休み。
─多分しばらくは休校だろうと龍崎は思っていた。
それよりも龍崎が気になった点としては、警察も学校関係者も皆これを事故として認識していることである。
考えている内に、おそらく『魔王』関係の現象だろうと確信した。
むしろ面倒な事情聴取がないことは都合が良かった。
(それにしても…魔王は眷属の居場所が分かるんだよね。
なら家でじっとして迎えに来るのを待っていたほうがいいのかな。
序盤で消耗したくないし、外にいて他陣営の人たちに見つかるのは嫌だからね。)
命のかかった状況であるはずだが、龍崎は奇妙な興奮を感じていた。
元々この辺りの道は人通りが少ない。
時間帯もあって、今は龍崎を除いて誰もいない。
だからこそ、彼は好機だと思った。
突如龍崎の背後の地面から手が伸びて、左足を掴んだ。
ザシュッ
「ぐっ…!?」
振り向いたのも束の間、左足を暖かさと痛みが襲う。
男が、ナイフを刺していた。
咄嗟に龍崎は男がいる地面を凍らせる。
─が、彼は地面の中に潜っていく。
(間違いなくこれは他陣営からの攻撃…。
地面に潜るのが彼の契術だと言うの…!?)
「…面白くなってきました。」
首と体を回して周囲の地面を確認する。
しばらく待っていると、右手の電柱の手前から男が現れた。
ボサボサした黒い髪を掻きながら男は言う。
「…降参してくれ。無駄な戦いはしたくない。」
「私は龍崎綾。─自己紹介もなしにナイフを刺すなんて失礼ですよね…。」
「俺は大瀧駆。怠惰の眷属。で、降参するの?」
龍崎の心拍数が高まっていく。
「ザコ相手に降参する理由はないと思います…。」
以前の龍崎なら絶対に言わないようなことを言った瞬間、大瀧の目つきが変わった。
「今俺にザコっつったよな?そもそもお前は俺の実力を全くわかっていない。俺はやれば何でもできる人間だ。その証拠に俺はこの戦いに参加できた。無敵の契術も貰っている。なのに俺をザコだと?それは理不尽であり傲慢でありただの言い訳にすぎない。あれだ、お前友達いないタイプだな?すぐに他人を挑発していい気になる。マウントを取りたいんだけなんだろうきっと。そんな人間に誰も価値を見出すわけないんだが。まぁこの後君死ぬから新しく友達できることもないし忘れてくれていいよ。大体お前俺にナイフを刺されてるよな?左足を、グサッと。いいか?俺が上でお前が下。それは何も変わらない。そこにある事実だ。それを反転させようと目論むならば俺は許してはおけないのだが。」
龍崎は一瞬呆気にとられるも、すぐに笑って言った。
「三日天下」
「そうかそうか、苦悶の中で死にたいんだな。」
大瀧が地面に潜る。
龍崎は再び足元に集中した。
(地面ごと凍らせてもいいけど…突き破られるだけだよね。ならやるべきことは一つ。
次に来たときに…最大威力で凍らせる!)
待つ。待つ。ひたすら待つ。
実際とは異なり、彼女の中では数分程の時間が流れていた。
その時、揺らめきが起こった。
─が、龍崎の予想に反して右の壁から大瀧が飛び込んできた。
龍崎は思わず反応が遅れてしまう。
必死に避けるも、ナイフは龍崎の右足を貫いた。
「チッ、止めをさせると思ったのにさ!」
また凍らせようとするが、その前に潜られてしまう。
両足から血がどくどく出てくる。
龍崎は思いつきで傷口を凍らせて塞いだ。
(痛みで頭が働かない…。しかも次の攻撃は避けられない。間違いなく急所を刺しに来る。考えるんだ。心を乱されずに、そして何より…)
大瀧の挙動を思い出す。
(最初に奴が現れたのは私の後ろ。次は右手の電柱の前。その次は右の壁、…右?)
ニヤリと笑う。
(…わかった。次の貴方の出てくる場所が…)
龍崎は必死に這って壁から離れて、道路の真ん中で止まった。
そしてひたすら待つ。待つ。待つ。
とうとう、大瀧が現れた。
「終わ…」
グシャァッ
「がばぁ…!?」
氷の柱が、大瀧の口を
振り返って龍崎が言う。
「私の背後。電柱の前。その横の壁。
この3つの共通点は影があること。貴方の契術は影に潜る力です…。最初のは私の影を伝って電柱の影に移動したんですね。」
「らんれ…おれぁ…ぉんら…」
「楽しませてくれて、ありがとうございました。」
「おーおー、派手にやってんじゃねぇかぁ」
大瀧の絶命を見届けた直後、声が聞こえた。
振り向くとそこには制服の少年がいた。
茶髪で背丈は普通、何よりどこにでもいそうな雰囲気を漂わせていた。
自分と同じぐらいの背丈に見えるが、同学年では見ないからおそらく上級生だろうと龍崎は確信した。
(彼も眷属…?けどなぜだろう、敵意を、感じな)
「身構えなくてOKだぜぇ。俺の名前は米沢乱流─憂鬱の魔王だ。」
「えっ…えっと…憂鬱の魔王?ってことは私の仲間ってことですか?」
「まぁーそうなるなぁ。よろしく。」
米沢が間延びした口調で言った後、2人は右手を握りあった。
「それなら命を賭けてお助けします…。貴方が勝てば死んでても復活できますし。」
「おいおい、それどこ情報だぁ?─あーあれだ、眷属のみの情報ってやつかぁ。」
「いやいや~、良かったッスね無事で!来る前に死んじゃってったらとっても悲しかったッスよ!」
夢で見た女性が現れた。
「あなたも…一緒に戦うんですか?」
「いやいや!アスタロトは見てるだけッス!この姿も、同陣営の人間と他の悪魔にしか見えないんスよ。」
「えっと…そうなんですね。ところで米沢さん…理想の世界を創るって言ってましたが…どんな世界を作るんですか?」
米沢が待ってましたとばかりにニヤリと笑う。
「そりゃぁ聞きたいよな?とっても楽しいぜ?だって─」
一呼吸して、彼は言う。
「全てのオカルトが、現実になるからな。」
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