死神は見ている
春海レイ
死神
「死神はいるよ。見えるんだ」
手術を控えた友人が言った言葉は親が聞いたら平手打ちしそうなほど愚かでくだらない冗談だった。
「おいおい、手術を控えてるんだから。そんな冗談を言うなよ」
「本当だよ。みんな見えてるのに覚えてないんだ」
俺は少し怒りそうになりながらも、彼の話を聞くことにしたんだ。
「最初に死神とあったのは…というより、覚えているのは、高校一年生の秋頃だね」
「なんだ?フードを被った骸骨でも見たのか」
「ああ、違う違う。みんなそう言う死神を想像するけど、そうじゃない」
ベットから起き上がり、扉の方を見ながら彼は
「死神は本当は煙なんだよ。霧のような、そんな感じの煙さ、そして、死神は死にそうな人の元に来るんじゃないんだ。最初からそばにいて、死ぬのをじっと待っているんだよ」
と言った。
「それはお利口な死神だな」
「本当だよ。現に今ここには煙が立っているけど、晶には見えてないだろ?」
こいつは本当に…
「ああ!見えてないね、お前を連れていく死神の姿なんて見えるわけないだろ!」
机を叩きそうになった手を引っ込める。
友人は悲しそうな顔をしながらこっちを見て、話を続けた
「話が逸れたね、僕が最初に死神を見たのは高校一年生の頃、電車に乗っててちょうど降りようとしたときだった。」
_________
「次は〜札幌〜札幌〜お出口は右側に変わります。」
「ああ、次か」
僕はそのとき、スマホで動画を見ながら電車の中で座っていたんだ。
電車の中は結構空いていたけど、ちゃんと人は数人いる普通の電車の中
駅に着いてさあ降りようってときだった
「うわ!」
突然目の前に煙が現れて、驚いた僕はそのまま煙の中に突っ込んでしまったんだ。
「…なに?」
でもさ、煙をくぐっても何も起きないんだよ。そのときはね。
その日は恥ずかしくて急いでバス停まで走ったんだけど、次の日から急に運が悪くなった。
多分、この世のものじゃないのを認識したから運が悪くなったんだろうね。
それ以外は何もなくて、僕も気にせず日々を過ごしてたんだけど、この煙とまた会うことになるんだ。
_________
次に遭遇したのは、高校2年生の頃、
場所は2階と1階をつなぐ階段だった。次はすぐ気づいて少し身構えたよ。
何かしてくるんじゃないかってね。
だけどね、何もしないんだよ。煙はそこに存在してるだけで何もしてこない。
だから僕はビンで捕まえようとしたんだけどね、目を離したら消えてなくなってた。
_________
「それのどこが死神なんだよ」
「見えた時期から死神だと推測したよ。今は高校三年生で、煙は部屋中に蔓延してるんだもん」
「…くだらねぇ、そんなこと気にすんなよ。なんだっけか、落ち葉の話だってメンタルの問題だっただろ?お前のその煙もメンタルの問題で、別に死神のせいではないだろ」
俺がそう言うと友人は悲しそうな顔で
「そうだといいね…なあ晶、自分の体の事は僕が一番よくわかってるんだよ。こんな体の状態で昔見た煙と同じものが部屋に充満してたら、こう思っちゃうよ」
と言った。
「大丈夫だよ。お前は治る!俺が保証する!」
「はは!なんだそれ。晶に補償されても何も安心できないよ」
「まあ、頑張ってみるよ。僕なりに」
そう友人が言った次の日、友人は亡くなった。病気とは何ら関係のない。自殺で
俺は今ならわかる。あいつは死神に連れていかれたんだと思う。手を引かれるように
だって40になった俺の目の前に、煙が現れたんだ。
今ならあいつの言うことが信用できる。
死神は存在すると
死神は見ている 春海レイ @tanakazaurus
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