第13話 自信を持たせる
それにしても、素顔に自信を持たせるって、どうやってやればいいのだ?俺なんかが褒めたって、彼らの自信になるのか?
翌日、出社前に連絡が入り、俺たちメイクスタッフの入り時間が変更になった。どうやら、練習はノーメイクで行く事になったようだ。そして、雑誌インタビューが入る午後14時から、俺たちの仕事が始まる事になった。
俺は晴れ晴れとした気持ちになった。達成感というやつか。まだまだ彼らの仕事が多過ぎるのは改善されていないが、とにかくお肌の負担は減らせる。あいつらが顔がむくんでいるとか、目の下の隈がどうとか言って悩む姿を見なくて済むのだ。
いや待てよ。メイクはしなくても撮影はされる。もし今日もまた、
「顔がむくんで・・・。」
と悩んでいるやつがいたら、俺がそのむくみを取ってやらんといけないのではないか。ああ、それにだ。いきなりノーメイクで臨む撮影に、まだやつらが自信を持てずにいたら、自信を持たせてやるのが俺の仕事ではないか。
こうしちゃおれん。俺は今から会社に行く。そして、彼らを鼓舞してやらねば!
俺が出社すると、マネージャーが怪訝な顔をした。メイクルームに行く必要のないオレンジピールのメンバーは、レッスンスタジオで柔軟体操などをしていた。おやおや、みんな柔らかいな。
「あ、梨陽さん!」
「梨陽さん、来てくれたんだー!」
「梨陽さん、俺の目の腫れ、何とかしてー!」
やっぱり。お寝坊夢羅が飛んできた。
「目の腫れ?大した事ないじゃないか。まあ、いい。冷やしてやる、」
俺は例のものを冷凍庫から出し、顔を冷やしてやった。
「ねえ梨陽さん、梨陽さんが社長に言ってくれたんだよね?メイク時間を減らしてって。」
「ああ、まあな。」
「それは良いことなんだろうけどさ、ノーメイクで動画撮られても大丈夫なのかな。俺ちょっと心配だよ。顔がむくんでても、ニキビが出来ても、メイクで何とかしてもらえるって思って安心してたからさ。」
やっぱり、そう来たか。
「夢羅、お前達はな、メイクのし過ぎによって顔がむくんだり肌が荒れたりしてたんだ。もっと肌を休ませれば、そんなに肌に悩む事はなくなるんだよ。」
「そうなの?それなら・・・いいな。」
夢羅はニコっと笑った。
「おうおう、その顔だ。メイクなんてしてもしなくても、笑顔の良さはおんなじだ。」
鏡越しに、俺も笑顔を返した。こっちはマスクをしているが。一応目は笑っていたようで、俺の顔を見て夢羅も更にニコッと笑った。
それから、俺は一人一人にお世辞を言って回った。
「柊人、お前は男前だねー。男っぽい感じがさ、ノーメイクの方が際立つよな。」
「大哉、お前は元々綺麗な顔だから、メイクなんてしない方が一般人との差が出るんだよ。たまにはそのピカピカな素顔を見せてやれ。」
「真生、お前の顔には欠点がない。そこが強みだから、自信持てよ。」
「夢羅、お前は目がぱっちりしていて可愛い顔なんだ。素顔でも目が大きいって事を見せてやれ。」
「瑠伽、お前は笑顔がいい。笑っていればメイクをしてたってしてなくたって、同じだぞ。いつも笑っていれば大丈夫だ。」
そうして一通り言って回ると、
「梨陽さん、わざわざそれを言いに早く来てくれたの?」
真生が言った。
「ああそうだ。社長と約束したんだ。お前達に、素顔でもイケてるっていう自信を持たせるって。自信付いたか?」
「アハハハ。そんな簡単に付かねえよ。」
柊人が笑って言った。
「そうだよ、梨陽さんに言われたからって、自信付くわけないじゃん。」
真生も言う。
「まあ、そうだろうな。」
俺は苦笑い。マスクしてるから、苦笑いは伝わらないかな?
「しっかもさ、梨陽さんはメイクしてるんだもんな。説得力ないなぁ。」
「アハハハ。本当だよ。」
真生が皮肉を言い、瑠伽が笑った。ああ、そうだった。俺は自分がメイクしているくせに、ノーメイクを勧めてるってわけか。
「だがな、俺はいつだってナチュラルメイクだ。お前らみたいにコテコテのメイクはしないし、俺はそれほど夜も遅くまで働いちゃいないからな。」
ちょっと言い訳めいているが、本当の事だ。
「そっか。確かにそうだね。」
大哉が今気づいたかのように言った。
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