第1章 6話

 『――いや、もう


 俺はフィリアに向かってそう答える。


 瞬間、唐突に戦闘の流れが激変する。


 最終試験開始から十分弱、初めて俺が攻めに転じたのだ。


 通常ならばそれはただの自殺行為だ。いかに卓越した剣技の才を持つものでも、圧倒的な力を誇る闘神との正面切っての撃ち合いでは無力に等しいだろう。


 ただその強大な力の前に押し潰されるのみ。そのはずだ。そのはずだが――


 「くっ!」


 あろうことか、アレスの足が後ろへと下がる。


 正面切っての剣戟けんげきで、力で勝るはずのアレスが押し込まれる。


 何故か?その理由は、俺の鋼が描く速水はやみの如き剣の軌道にある。


 ――自分よりも攻撃力が上の相手の剣術を完全に封殺する方法とはなにか?


簡単だ。相手の剣術の攻撃力を全て自分の攻撃力に変えればいい。相手のパワーを利用すればいい。そうすれば、攻撃を受け流された際に生じるすき。そこへ的確に、相手の力を利用し反撃の一撃を入れることができる。


 ――だがそれを行うには、相手の剣を完全に見切る必要がある。


 だから俺は。アレスの剣技を見切った上で彼の攻撃を全て受け流し、その


 すなわち最強の反撃技カウンター。それこそが俺、朱羽遊の編み出した七つのオリジナル剣技の一つ。


 「第三秘剣――天衣無縫てんいむほう

 

 『お、おい。なんか、闘神さまが押されてないかっ!?』


 目に見えて劣勢になり始めたアレス。予想外の事態に観衆がどよめく。


 だが、一番驚いた顔をしているのはフィリアだ。


 当然だろう。アレスのもとで修行をしているのを知っていたとはいえ、半年前に天界に来たばかりの人間である俺が、かの闘神の剣技を見切り、圧倒しているのだから。


 しかもそれだけではない。俺は先ほどから【身体強化】以外に使




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