第49話
「さて、後は君たちをどうかだね」
龍之介を生徒たちに殺させた幸雄は、手足を地に染めた彼らに目を移した。
「「「「…っ」」」」
生徒たちは、自分たちも同じような目に遭うのかと思って震え上がる。
だが、幸雄には彼らをどうこうしようというつもりはなかった。
「おっと、安心してよ。別に個人的に君たちに恨みがあるわけじゃないから、二人みたいにどうこうしようという気はないよ」
「「「「…」」」」
生徒たちが内心ほっと胸を撫で下ろす。
「けど支配を解いた途端にすぐに仕返しに来られても困るからね。そうだなぁ…じゃあ、君たちは後一時間ほど、ここでじっとしておいてよ」
「「「「…っ!?」」」」
幸雄の命令に、クラスメイトたちが目を剥いた。
ここはモンスターの坩堝、ダンジョンの中だ。
いつ何時モンスターに襲われるかも分かっらない場所で、一時間も身動きできずに拘束されるというのは、死の確率がグッと高まる。
生徒たちは幸雄に抗議しようとしたが、口を開けない命令が続いていたために、声を上げることはできなかった。
「一時間経ったら好きに動いていいよ。それまでにモンスターに遭遇したら…まぁ、運が悪かったと思ってね」
「「「「…っ」」」」
生徒たちは幸雄を睨み、無言の抗議を試みる。
だが、幸雄はすでに彼らを見ていなかった。
幸雄の視線はある一点に釘付けになっていた。
「さあ、遅くなった。ごめんね、黒崎さん。ようやく君を助けることができたよ」
「…っ」
麗子がびくりと体を震わせる。
幸雄にねっとりとした執着を感じさせる視線で舐め回されて、ブルブルと恐怖に震え出した。
無理もない。
裕也に恥辱の限りを味あわせ、精神を破壊し、そして生徒たちに命令して龍之介を容赦なく殺した。
幸雄は明らかに異常だった。
もともとなのか、それとも日本で生徒たちに長い間虐げられてこうなったのか定かではないが、ともかく人として大切な何かが欠落していた。
そんな幸雄に、ここまでの執着心を見せられて恐怖しないはずがない。
麗子はこの場でレイプされることさえも覚悟した。
「ほら、おいで」
そんな中、幸雄が麗子に手を差し伸べる。
「怖がらなくて大丈夫。君は僕のメインヒロインだからね、酷いことはしないよ。本当はスキルで無理やり僕に対して恋愛感情を持たせることもできるけど…でもそんなことはしない。君には自然に僕を好きになってもらいたいんだ。ほら、まずは手を繋ごう」
最後のセリフを、幸雄はスキルの力に乗せて放った。
麗子の手が幸雄に伸びてくる。
幸雄が麗子の手を取った。
冷たく柔らかい感触が手に広がった。
「ふひっ」
幸雄がにちゃぁと笑った。
それからしっかりと麗子の指に自らの指を絡ませて、ダンジョンの来た道を指さした。
「それじゃあ、一緒に行こうか。何があっても僕が守るから、安心してね」
「…」
麗子は返事ができない。
スキルによって口を閉ざすことを強要されているからなのだが、たとえそうでなくとも恐怖で口が開けなかっただろう。
幸雄は手を繋いだまま歩き出す。
麗子もそれに付き従わざるを得ない。
「じゃーね、君たち」
幸雄は玲子と手を繋ぎ、背を向けた状態で、残されたクラスメイトたちに別れを告げた。
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