第39話


「ここがダンジョンかぁ…」


「暗いね…」


「薄気味悪い…」


「なんか出てきそう…」


十数名の制服姿の生徒たちが、ダンジョンの暗い通路を慎重な足取りで進んでいく。


彼らを率いるようにしてその先頭に立っているのは、カリスマスキル持ちの有馬裕也だった。


「みんな、大丈夫…!俺たちにはスキルがあるから…モンスターが出てきても必ず勝てるよ…!勇気を出して進もう…!」


今朝、冒険者ギルドの裏手の宿舎で目を覚ました彼らは、ギルドでクエストと呼ばれる依頼を受け、この場にいる。


クエストの内容は、ゴブリン十体の討伐というもの。


ギルドの職員曰く、初心者向けの、あまり難易度の高くないクエストだ。


「う、うん、そうだね…!」


「有馬くんがいれば安心だよね…!」


「有馬くんは優しいよね…!」


ダンジョンに入ってからずっと不安げな呟きを漏らしていたクラスメイトたちだったが、有馬の一言によっていくぶんか明るい表情を取り戻す。


「ありがとうみんな…!地上で情報を集めてくれている班の人たちのためにも、頑張ってクエストをクリアしよう…!」


そんなふうにクラスメイトたちを勇気づける台詞を吐きながら、裕也は内心では全く別のことを考えていた。


「おめでたい奴らだな…自分たちがこれからどうなるかも知らずに…」


最後尾にいる五名の生徒を見て、裕也はどす黒い笑みを浮かべる。


彼らは皆、この先何の役にも立たないであろうスキルを持った生徒たちだった。


裕也がダンジョンに潜った目的は二つ。


一つは生徒たちにも言った通り、王都までの路銀を稼ぐこと。


そしてもう一つ、誰にも知らせていない目的があった。


それはダンジョン内で、役に立たない生徒を間引くことだった。


もちろんそれは裕也が直接手にかけるという意味ではない。


あくまでモンスターとの戦闘によって命を落としたという体にするのだ。


荷物はなるべく少ないほうがいい。


ここである程度役立たずを減らせれば、王都までの路銀も少なくて済むだろう。


「唯一西川のスキルだけはまぁまぁ今後も使えそうだが…しかし、あいつはキモいからな。キモいやつは俺の仲間にはいらん」


五人の中で1番使えるスキルを持っているだろうと思われるのが、西川幸雄という生徒だった。


彼のおかげで、裕也たちは通行証も通行料もなしに、門番を説得してこの街に入ることができた。


もしかしたら今後も同じような状況にならないとも限らず、西川は他の四人とは違って完全な役立たずとは言えなかった。


「なんか気味悪いんだよな…他の奴らとは違って…」


が、それでも裕也は西川をこのクエスト中に他の四人とまとめて始末するつもりでいた。


理由は、はっきりと言葉にできないが何か西川という生徒から不気味なものを感じるからだ。


他の生徒は今や、黒崎を除いて完全に裕也の手中にあり、裕也の命令に絶対の信頼を置いている。


西川幸雄も表面上は、裕也の命令に素直に従い、裕也の言った通りに行動することに喜びを覚えているように見える。


が、裕也は幸雄と目が会うたびに何か他の生徒とは違う気配を感じ取っていた。


従順そうな表情とは裏腹に、その目はまるで獲物を見るかのように鋭く尖っているのだ。


「気のせいかもしれんが…ま、不安要素は排除しておくか…」


もちろん、確信はない。


幸雄から感じる気配というのは裕也の気のせいという可能性も十分にある。


だが、裕也はあまり不安要素を抱え込みたくはなかった。


どうせ幸雄のスキルは使い所が酷く限定的なもので、失ったとしてもそれほど痛くない。


であれば、ここで他の役立たずと一緒に始末したほうがいいと判断したのだ。


「黒崎ももうじき落ちるだろうし…くひっ…あの体を好きにするのが楽しみだ」


裕也はこの場に連れてきた黒崎麗子にちらりを視線を移す。


二日も食事をとっていない黒崎はすっかり憔悴して、瞳は空だ。


プライドを保てずに、裕也の軍門に下るのも時間の問題だろう。


「くくく…」


もうじき黒崎の体を好きにできる。


裕也はうちから湧き上がってくる興奮を抑え込み、クツクツと笑いを漏らすのだった。

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