第35話
確か最後に自分のステータスを鑑定したのは、魔王討伐の旅に出る直前だったか。
その時点ですでに俺のステータスは、水晶の測定限界を超えていたはずだ。
それ以来ステータスを測定する機会がなかったからすっかり失念していた。
俺のステータスを鑑定できる水晶が、異世界には存在しないことに。
「ままま、まさか…っ!!測定限界値を超えるステータスを…!?」
割れた水晶を見て受付嬢がワナワナと震え出す。
「お?」
「ん?」
「なんだぁ?」
受付嬢のあまりの大声に、周囲の冒険者たちが一斉にこちらに注目した。
不味いな。
このままだと騒ぎになりかねない。
俺は誤魔化すことにした。
「そんなことあるはずないだろ。測定値を超えるステータスなんて、それこそ勇者でもない限りありえない。きっと水晶が老朽化していたんだろ」
「そ、そうですね…」
俺の一言によって冷静さを取り戻したらしい受付嬢が、居住まいを正す。
「失礼しました…取り乱しました。お、奥から新しい水晶を持ってきますので…しばらくお待ちください…」
そう言って受付嬢が引っ込んでいった。
「え、どういうこと…?」
いまいち状況の飲み込めていない新田が、隣で首を傾げている。
「どうやらあの水晶じゃ俺のステータスを測り切れなかったみたいだ」
「へ…?どういうこと…?」
「測定限界値ってのがあってな。それを超えると、水晶が耐えられなくなって壊れるんだよ」
「な、何それ…あ、握力が凄すぎて握力計が壊れるみたいな感じ…?」
「まぁ、それに近いな」
「えぇ…」
新田がちょっと引いていた。
「お、おい…新田…」
「な、なんかすごいんだね…一ノ瀬くんって…」
「…」
「機会があればでいいから…前にこの異世界に来たときに、何があったか聞かせてね…」
「…わかった。長くなるぞ。いいのか?」
「うん、大丈夫。すごく興味あるから」
「そうか…」
新田とそんな会話をしていると、受付嬢が戻ってきた。
その手には新しい鑑定水晶が握られている。
「ど、どうぞ…新しい水晶です」
「すまない」
俺は再び鑑定水晶に手をかざした。
それと同時に、自身に無詠唱でデバフの魔法をかける。
一回だと不安なので、一応五回ほど重ねがけしておいた。
一度の魔法でステータスは約半分になるから、五回もかければ、十分測定範囲内に収まることだろう。
受付嬢に見守られる中、水晶が光り輝きだした。
「こ、これは…すごい…!かなり高いステータスです…!ここまでのは久しぶりに見ました…!」
受付嬢が興奮した声でそんなことを言う。
「そうか…」
俺は無事測定範囲内に収まったことにほっと安堵の息を漏らした。
「このステータスなら問題なく登録が可能です。また、高ステータス登録者限定の様々なサービスを受けることができます。武器の貸し出しや、初期費用の貸付などですね」
俺が高ステータスだったからか、その後の受付嬢の対応はずいぶん物腰低いものになった。
俺はその後、自らを冒険者として登録し、新田を助っ人として登録。
冒険者カードを発行してもらい、晴れて冒険者となることが出来たのだった。
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