第17話
「ん…?どうかしたのかな?」
「あ、有馬くん…!大変だ…!」
「有馬くんっ、助けてくれ…!」
唐突に響いた悲鳴に首を傾げる裕也の元に、前方から数名の生徒が慌ただしく駆けてきた。
「そんなに慌てて、何かあったの?」
「み、緑色の化け物が…!」
「た、多分モンスターだと思う…!」
生徒たちが口々にそう言った。
「へぇ…モンスターか…」
裕也は目を細める。
モンスター。
この世界の森や草原などに跋扈する怪物で、言語を持たず、人を見ると問答無用で襲いかかってくるという。
いずれ遭遇することになるだろうとは考えていたので、裕也はさして動揺しなかった。
「大きさは?どのぐらいだった?数は?わかる範囲でいいから答えてくれないかな?」
興奮しているクラスメイトたちを宥めるように裕也は尋ねる。
裕也の柔らかい口調に、幾分か落ち着きを取り戻した生徒たちが、自分の目で見たものを話す。
「し、身長は俺たちの半分ぐらい…こ、子供ぐらいで…」
「全身緑色だった…!」
「ツノがあって…」
「体はガリガリで…」
「さ、三匹はいたぞ…!」
相当醜悪な見た目だったのか、生徒たちは思い出して表情を顰めている。
「ふむ…子供ぐらいの身長か…」
あまりに強そうなモンスターなら逃げることも考えたのだが、報告を聞く限り、そこまで強いモンスターとは考えられなかった。
であれば、クラスメイトたちの戦闘スキルの威力を知るためにも、ここは一度戦ってみるべきだろう。
裕也はそう判断し、すぐに指示を出す。
「みんな…!前方にモンスターがいるみたいだ…!戦闘系のスキルを持っていない者は全員下がってくれ…!」
裕也がそういうと、近くにいた伝達係の生徒がすぐさま動き、周囲に散らばった生徒たちに指示を伝える。
ほどなくして、周囲の森から戦闘系のスキルを持たない者たちが次々に避難してきた。
「さて、行こうか…!俺たちならきっと倒せる…!」
「おう!」
「任せろ…!」
反対に裕也は、戦闘系のスキルを持った生徒とともに前方へと進んでいった。
するとガサガサと茂みが動いて、小柄な何かが飛び出してきた。
『グギィ…』
『グゲゲ…』
『ギーッ、ギーッ』
それは生徒たちの報告通り、緑色の化け物だった。
非常に醜い面相をしており、痩せて子供ほどの身長しかない。
目玉はぎょろぎょろと動き、手には武器として木の枝を持っていた。
「うわぁ…」
「き、キモい…」
見た目の醜悪さに生徒たちが引き気味の声を出す中、裕也が指示を出す。
「石田くん、戦ってみてくれないかな?」
「え、俺が!?」
名前を呼ばれた男子生徒が驚く。
石田正太郎。
彼は数少ない戦闘系のスキル持ちの一人だった。
「君のスキルなら出来ると信じてる…!その力を存分に発揮して、俺たちを助けてくれないかな?」
「わ、わかった…!任せろ…!」
石田は裕也のカリスマスキルによって完全に懐柔されているため、裕也の頼みは断れない。
裕也は、いつでも自分だけは逃げられる準備をしながら、石田と緑のモンスターたちの戦いを見守る。
「有馬くんに頼まれたんだ…!お前たちは俺が倒す…!」
そう豪語した石田が、近くにあった巨大な岩に手をかけた。
「うおおおおおおおお!!!」
百キロは有にありそうなその石を、石田は軽々持ちあげた。
「おぉ…」
その様子を見た裕也は感心する。
「あれが、怪力スキルか…人間の域を超えているな」
裕也はクラスメイト全員にスキルを申告させたために、石田のスキルを把握していた。
石田のスキルは、怪力。
自分の本来の力の数倍の怪力を発揮できるスキルだと聞いていたが、まさかここまでだとは裕也は思っていなかった。
「潰れろぉおおおおおお!!」
大岩を持ちあげた石田は、雄叫びとともに緑のモンスターたちに向かって投げつけた。
グシャ!!
『『『グギャァアアアアア!!!』』』
モンスターたちの断末魔が響き渡る。
大岩の下敷きとなった緑のモンスターは、鋭い断末魔をあげ、静かになった。
内臓と思われるものが、体内からはみ出しており、血の匂いが周囲に漂った。
流石に絶命したのだろう。
「はははっ!!どうだ!!!」
石田が勝ち誇る。
「すげぇ!!」
「石田やるじゃねぇか!!」
「すごいぞ石田!!」
「なんだ!モンスターってこんなもんかよ…!」
クラスメイトからも次々に歓声が上がった。
「ふむ…倒したか…」
モンスターが見た目以上に強い可能性を危惧し、逃げる準備をしていた裕也はモンスターが絶命したのを見てホッと胸を撫で下ろす。
そんな裕也の元に石田が、駆け寄ってきた。
「やったぜ!俺、やったぜ有馬くん…!」
「ああ、見ていたよ…!ありがとう石田くん…!君のおかげで俺やクラスメイトたちは助けられたよ!」
「へへっ」
石田が得意げに頭を掻く。
「ちょろ…」
聞こえないように裕也はボソッと呟いた。
何はともあれ、そうして裕也とクラスメイトたちは、初めてのモンスターとの邂逅を乗り切ったのだった。
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