第8話


恵美には目の前で起きたことが信じられなかった。


委員長の本田愛莉が殺された。


その事実を受け止めきれずにいた。


人間の死。


それは平和な日本で暮らしていたときは滅多に遭遇しない出来事だった。


それが、この世界に来た途端にこんなにも簡単に命が奪われてしまった。


しかも半年以上も同じ教室で授業を受けた同級生の命が、だ。


「…ぁ」


恵美はどこか夢を見ているような気分だった。


首を失って倒れた愛莉の胴体に視線を移す。


すると、鮮血を垂れ流しているグロテスクな断面が目に入った。


「…っ」


恵美は見ていられなくなって咄嗟に目を逸らした。


「うぅ…う…」


「ひどい…なんでこんな…」


周りからは生徒たちの押し殺したようなすすり泣きが聞こえてきた。


皆、カテリーナの逆鱗に触れないように、必死に漏れる嗚咽を抑えていた。


そんな中にあってカテリーナは、全く罪悪感も感じていない様子で、スキル鑑定をすると言い出した。


「この水晶であなた方のスキルを鑑定します。一列に並んでください」


どこからともなく取り出した紫色の水晶。


それで、恵美たちがこの世界に来る際に授かったはずのスキルのランクが測定できるらしい。


ランクは高ければ高いほどいいとのこと。


「早く並んでくださいね?泣いてる場合ではありませんよ?」


そういうカテリーナの口調は元の柔らかいものに戻っていたが、今度は誰も異議を唱えなかった。


生徒たちは弾かれたように動き出し、すぐにカテリーナの前に一列になって並ぶ。


そうしてスキル鑑定が行われていった。


見ていると、水晶の光り方によってスキルのランクがわかるようだった。


恵美がじっと観察していると、水晶がより強く光った時がランクの高いスキルを検出した時らしかった。


「まぁ…!これはこれは…!」


そう言ってカテリーナが嬉しげに瞳を輝かせるほどに水晶を光らせた人物が、二人いた。


一人は、有馬裕也。


サッカー部のエースで、クラスのまとめ役。

容姿に優れ、女子から非常に人気のある生徒だ。


またもう一人が、黒崎麗子。


学年一の美少女と名高い謎めいた女子生徒だ。


友達を作らず、いつも一人で本ばかり読んでいる。


その身に纏う神秘的な空気は、教師にすら気を遣わせるほど。


この二人がスキル鑑定を行った際は、水晶から明らかに他とは違うほどの光が放たれて、

カテリーナは非常に上機嫌だった。


「スキルのランクって…元々の才能と関係あるのかな…?」


明らかにポテンシャルの高い二人が高ランクのスキルだったことを鑑みるに、元々の能力がそのままスキルに直結するのかと恵美は考えた。


そうこうしているうちに、恵美の順番が回ってきた。


他の生徒たちがそうしていたように、恵美はカテリーナの持つ紫色の水晶の前で手を翳す。


「あれ…?」


が、いつまで経っても水晶は反応しなかった。


おかしい。


他の生徒たちの時は、程度の差こそあれ、水晶は反応していた。


奇妙な現象に恵美が首を傾げていると、カテリーナが「ちっ」と舌打ちをした。


「え…」


そうしてゴミを見るような視線を恵美に向けてくる。


「この役立たずっ」


「…っ!?」


唐突にそう言われ恵美はびくりと体を震わせる。


「たまにいるんですよねぇ…異世界から召喚したのにスキルを持たない役立たずが…」


「…っ!?」


「さっさとはけてください。邪魔ですよ」


「…は、はい」


それ以上その場にいると何をされるかわからなかったため、恵美は逃げるようにして列をはけた。


恵美が離れると、カテリーナは興味を失ったように、次の生徒の鑑定結果を見る。


「うわ…新田のやつまじかよ…」


「スキル無しだって…」


「可哀想…」


恵美が呆然とする中、周囲の生徒からは同情するような声が囁かれた。




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