雨が降っている日

ももいくれあ

第1話

ワタシは雨が好きだった。

梅雨の雨。真夏の夕暮れ時の雨。真冬の冷たい氷雨。春の爽やかな雨。秋になる雨。キツネの嫁入り。

数えきれないほどの雨たちと共に同じ時間を過ごしてきた。

毎日、毎日。常に。日常的に。

朝、と言っても、もうお昼近いのがワタシの1日の始まりだった。

血圧は上が76、脈拍は52、体温は35,8。変わらない朝だった。そっとぬるりと布団から抜け出しては雨音を聴いていた。

それがワタシの唯一の楽しみ。憂鬱の始まり。

そんなワタシの朝には決まってフルーツジュースが必要だった。

バナナ、りんご、プルーン、人参、砂糖無添加のアップルシナモンジャムを少々。あとは、牛乳か豆乳。ほんとはヨーグルトも入れた方がいいはずだけど、入れなかった。素焼きのナッツを入れることもあった。

一時期は毎日毎日、飽きもせずに素焼きアーモンドを1日30粒以上。

5年ほど続けた。

そして、ある日から唐突に食べなくなった。

それがワタシの日常。

だから、このフルーツジュースもいつまで続くか分からないけれど、今はひとまず毎日毎日何らかの沢山の、具沢山栄養ジュースを250-300mlは飲んでいた。

そして、3年が経っていた。

雨音は静かに、時に激しくワタシの耳に襲いかかった。寝ているワタシを起こすくらいの物音で、それは激しく襲いかかった。雨音に起こされ外を見ると土砂降りだった。

もう夜も遅いので、この話はまた明日にしようと仕方なく眠ることにした。

雨は続いた。

毎日、毎日、もう3ー4日はシトシトと、時に激しく降り続けた。

さすがに参ったワタシはカレを呼ぶことにした。

雨音が気になって夜も昼も眠れないことや、毎日飲んでいるフルーツジュースのフルーツも買いに行けないほどの豪雨。ナッツもきらしていたので、ワタシは昨日、今日と何も食べていなかった。炭酸水に有機栽培レモンを搾り、一日中少しずつほんの少しずつ喉を潤した。そのせいでちょっと疲れていた。

連日の雨のせいで寝不足だったし、何も食べていないし、だった。

それがワタシの日常。

よくある光景だった。


カレは慣れた手つきで温かい野菜たっぷりのスープを作っていた。ヤサイは色々。味も色々。色も色々。栄養たっぷりの証だ。殆ど素材の味だけだったが、あとは塩と胡椒、有機栽培レモンくらいだった。

これがまた、格別美味しかった。

2日間何も食べていないワタシの胃にとって、1人で雨と格闘したココロとカラダにとって、カレの作ってくれた野菜たっぷりスープは何よりの栄養だった。カレはそれを知っていた。だから、度々ここにきては、色んなココロ温まるスープを優しく差し出してくれた。

でも、今ではワタシはそんな優しいスープを作ってくれるカレのことをあまりよく思い出せなくなっていた。

悲しい。

寂しい。

孤独。

儚い。

切ない。

悔しい。

虚しい。

そのどれでもなかった。どんな形容詞も特にあてはまらなかった。

だた、すべてその跡形もなくごっそりと、抜け落ちていたからだった。


ただ、雨音だけは今もちっとも変わっていなかった。


雨はやっぱり毎日降っていた。

ふっと窓の外を見ると、どうしても降っていた。

いつまでも降っていた。漏れることなく、溢れることなく、

ただ、どうしようもなく雨は降り続いていたのだった。

路面はしっかり濡れていた。

いつまでも続く雨の中で、ワタシはひとり傘をさして歩いていた。

時々小さな子どもに話しかけられた。どうして、傘をさしているのかと。

ワタシは迷わず言った。


だって、雨が降ってるじゃない。

濡れてしまうもの。


ふっと、気配を感じて後ろを見ると、カレが少し微笑んで立っていた。

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