忘れられた箱

まの

ある朝

毎朝、公園で子供とバスを待っています。

馴染みのジョロウグモがずっと巣を張っています。


「おはよう姉さん」

「おはようまのさん」

「寒くなってきましたね」

「本当にね。これが最後の網だわね」

「そのてんとう虫、ずっとかかっていますね。お召し上がりにならないんですか」

「ああこれ?もう何日も干物にしているわね。お腹が空けば食べるわよ、何日も獲物がかからなければね。でもおいしくはないじゃない?硬いし臭いし」

「なんだか酷なような気がしますよ」

「彼が勝手にかかってきたのよ」

「そりゃそうですけど」

「あのねぇ、まのさん、あなたの方こそ勝手なことをおっしゃるわ。私はこのやり方しか知らないのよ」

「すみません」

「お腹がこんなに重たくなければね、身一つで狩りをすることも考えるわ。もうすぐ冬だし、来世ではそうしましょうね」

「寂しいこと仰らないで下さい」

「そうは言っても、さだめですからね。もっとも、まだ私にはやることがあるけど」

「やること」

「いちばんの獲物を待ってるのよ」

「獲物ですか」

「最初で最後の獲物よ、子供のためのね」

「おいしいんですか」

「おいしいでしょうね」

「食べたことないのに、わかりますか」

「おそらくね。そういうさだめですから」


オスグモっておいしいんだろうか、カイコとハチノコなら食べたことあるけど。てんとう虫はたしかに不味そうだ。いや、そういうことじゃなくて。私にはわからない。生殖って一体、

「ねぇママむしさんみてるの?」

「…虫さん見てるよ。バス来たね、行こうか」

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