第5話 JKのパンツを好き放題見れるんだから役得じゃない?


 放課後。


 部活や帰宅で人の去った教室にいるのは、俺と間宮の二人だけ。


「さて、と。そろそろいいかな」


 隣の席で課題をしていた間宮が、声の調子を変えて呟く。

 どうやら優等生モードは終わりらしい。


 課題を鞄に仕舞い、両手を頭上で伸ばす。

「んー……」と漏れた声、背を逸らしたことで制服を内側から押し上げるように胸の大きさが強調された。


「どうしたの? そんなにおっぱい見て」

「頼むから少しは恥じらいを覚えてくれ」

「服の上からだし、日ごろから視線は感じてるから慣れちゃった。それに、藍坂くんはちょっと遠慮がちに見てるからさ。初心なんだなあって、揶揄からかってる気分になって面白いんだよね」


 ごめんね? と悪びれのない笑顔を浮かべながら間宮が言う。


 普通この状況で恥ずかしがるのって間宮じゃないの?

 なんで俺の方が恥ずかしくなってんの?


 優等生モードの間宮にも勝てる気はしないけど、素の間宮にも勝てる気がしない。


 練度が違うわ練度が。


「……で、今日は何させる気だよ」

「言い方に棘があるよね?」

「気のせいだ」

「そう? えっとね、今日は昨日の続きをしようと思っててさ。裏垢に上げる用の写真、結局撮れなかったし」


 昨日は俺がその場面に出くわしてしまって、写真撮れなかったんだな。

 絶対に謝ったりしないけど。


「それでさ、ちょっと協力して欲しいんだよね」

「……協力?」


 訝しみつつ聞き返す。


「一人で撮ってると構図とかマンネリ化しちゃってさ。折角都合のいい人手を確保できたから、取ったことのないアングルで撮ってもらおうと思って」

「……俺が、間宮の裏垢に上げる写真を?」

「そうだよ? 文句あるならあの写真ばらまくけど」

「鬼かよ」

「これでも花の女子校生なんですけど」


 平然と脅迫してくるような奴が自分を花の女子校生とか言わないで欲しい。


 というか、マジで俺が撮るの?

 裏垢に上げるって言ってたし、昨日の様子を見るにちょっとエッチな写真ってことだよな。


 ……本当に俺が撮って大丈夫か?

 撮ったら脅迫材料増えない??


「先に言っておくけど、この写真を撮ったことで後から何か文句をつける気はないよ。私が頼んでることだもん」

「昨日脅迫されてた俺が信じると思ってるなら病院行った方がいいぞ」

「酷いなあ。でも、こればっかりは信じてもらうしかないかな。どうせ逃げられないんだし、腹括ったら?」

「それは断じて間宮が言うべきことじゃない」


 なんだよ「腹くくったら?」って。

 日常会話でそんな言葉を聞く日が来るとは思ってなかったぞ。


 よくよく考えればどうせ逃げられないし、いまさら証拠写真の一つや二つ増えたところで変わらないよな?


「わかった。それで、どんな写真撮る気だよ」

「えっとねー……机に座って膝を立ててるのを正面のローアングルから撮って」

「……それパンツ見えないか?」

「見えるね、多分」

「見えるね、じゃねーよ……やっぱり痴女じゃん」

藍坂あいさかくん的には嬉しくないの? 写真を撮ってる間はJKのパンツを好き放題見れるんだから役得じゃない?」

「そこ頷くのすげー勇気いるんだけど」


 仮に頷いてたら「え~、藍坂くんのエッチ~」とか、ニヤニヤしながら言われてた気がする。


 てかなんで普通にパンツ見えるアングルで撮らせようとしてんだよ……そういうのは最低限同性か彼氏に頼めよ。


 健全な男子高校生的にはね、確かに嬉しい気持ちもそりゃあちょっとはあるよ?

 でもさ……こう、上手く言えないけどおもむきというか、シチュエーション的なものを選ぶ権利はあると思うんですよ。


 開けっぴろげて見せられるより、自然にちらっと見えたり恥ずかしがりながら見せられるのが興奮するのであって……ってこれは俺の性癖じゃなく一般的な意見だぞ。

 多分。

 信憑性は知らないけど。


「ま、細かいこと気にしても仕方ないし、始めよっか」


 手をぽん、と叩いて、間宮が椅子から立ち上がる。

 上履きを脱いでから流れるように机に腰を下ろして、右足の膝を抱えて左足をそのまま伸ばした。


 黒いタイツに包まれた脚。

 滑らかな脚線美はさることながら、ついついその先へと辿ってしまう。


 膝、太ももと視線が動いて、スカートに隠れている暗い場所へと続き――罪悪感からか目を逸らしてしまう。

 だって、その先は多分、パンツだよ?


 興奮はするんだけど……どうにも犯罪チックなアングルと思考に揺さぶられて、素直に楽しもうとは思えない。

 なによりも脅されてるわけだし、俺が悪いわけじゃない。


「私のスマホ使っていいから。カメラ、藍坂くんのよりも性能いいし」

「……ほんとにやるのか」

「撮らなきゃ上げられないからね。さ、一思いにやっちゃってよ」

「…………わかったよ。「パンツ見られたー」って、後で文句言うなよ」

「言わない言わない。あ、因みに今日のパンツは水色だよ。前にちっちゃいリボンがついてる可愛いやつ」

「頼むから余計な情報を足さないでくれ頭がバグる」

「どうせ見るんだしいいかなーって」


 頭のネジ外れてるのか……?

 少なくとも俺が男として見られていない、ないし舐められているのは確実だ。


 それはちょっと、腹立たしく感じた。


 にやりと口角を上げて笑っている間宮からカメラを起動したスマホを受け取って、すーっと大きく息を吸って、吐き出す。

 平常心を頭に浮かべて、


「じゃあ、撮るぞ」


 緊張を抱いたままカメラを間宮に向けて伝えると、「うん」と一切の抵抗感なく頷いた。

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