第11話 忠魂碑
六箇郡之司有安倍頼良者。是同忠良子也。祖父忠頼東夷尊長威名大振。部落皆服。横行六郡。却略人民。子孫尤 滋蔓。漸出衣川外。不輸賦貢進勤徭役。代々驕奢誰人敢不能制之。永承之比。太守藤原朝臣登任。發數千兵攻之。出羽秋田城介平朝臣重成。為前鋒。太守率夫士 為後。頼良以諸部之俘囚拒之。大戦千鬼切部。太守軍敗績。死者其多。
奥六郡の首領に安倍頼良という者がいた。この者は、安倍忠良の息子で、祖父の忠頼は蝦夷の首領であった。武力をもって勢力を拡大し、村という村の者は皆これにつき従うほどの勢いがあった。奥六郡を我が物顔で横行しては、村人たちを脅し、掠め取り、その子孫たちも、その勢いに乗って、増え蔓延り、次第に衣川の外にまで勢力を拡大する有様であった。田畑に課せられた税は納めず、定められた公民としての労役も果たそうとしなかった。
長年のこのような安倍氏の奢り高ぶりに対し、誰一人として咎めることはできなかった。時に永承の頃(1046-1052)陸奥の太守となった藤原朝臣登任は数千の兵を引き連れて、これを攻めようと試みた。出羽の秋田城の介の平の朝臣重成を先鋒に立て、自らも兵士を引き連れて後に続いた。しかしながら頼良は、蝦夷の兵をもって、これを防ぎ、鬼切り部において激しい戦いとなった。登任軍は、甚だしい兵士を失い頼良軍に敗れてしまった。
陸奥話記より
なんの授業だったか、高校1年生の時に校外学習で、隣り街の寺を回って地図を作成するということがあった。気の合う仲間たちとグループを作り、寺をまわった。
途中で、昼になり、石碑を囲んで弁当を食べた。その時、仲間の1人がカメラを向けて、記念撮影をした。
彼女は写真部で、次の日には現像して、持って来た。
「ちょっと見て、この写真まずいものが写ってるんだ」
彼女に渡された写真はモノクロで撮影されていた。
「石碑のまわりに小さい人がいっぱいいるんだけど」
言われるまでもなく、弁当を食べる私たちの間に、着物を着たり、ランニングに水筒を下げていたり、軍服を着た青年、老人。20名位の小さい人に囲まれていた。日の丸を持っている赤ん坊をおんぶした女性もいる。そう、霊が写り込んでしまったのだ。
「どうしよう」彼女は不安そうに言った。私には何故か恐ろしさは伝わってこない。
「これから、また行ってみようよ」
幽霊がこんなにたくさん映る場所って聞いたことがない。
放課後に電車に乗って昨日のあの場所まで行った。街外れの山の入り口にある寺だった。石碑は寺の裏から続く登山道の先だ。ゆるい坂を登と、石碑がある。昨日はまったく気にしなかったが『忠魂碑』と彫られた石碑だった。
ここには、戦死した人の霊を祀っているらしい。
今度は、私が石碑のまえに立ち写真を撮った。
帰って現像しても、私以外は不思議なものは、映らなかった。
みんなには配れない。でも、街の老人なら、知った人がいるかも知れないと、私は写真を持ち帰った。
母が見覚えある人がいると言う。母は隣街から嫁いで来た。
「みんなが、賑やかにしてたから、写真に写りたかったんじゃないの。ほら、みんな笑っている」
友人と2人で寺に写真を持って行った。住職も面白がって写真を眺めたあとで、写真を預かってくれた。しばらくして、連絡があった。
出征する兵士を見送ったときの写真だった。映った人に、見覚えある老人が何人も出て来たから、慰霊祭をすることになったと言う。
友人と私はなぜかほっとした。慰霊碑とわかっていたら、あれほどふざけたことはしなかった。
恐ろしいことにならないでよかった。
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