第4話 東京散歩

あづまぢの道のはてよりも、なほ奥つかたに生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひはじめける事にか、世の中に物語といふ物のあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、つれづれなる昼間・宵居(ヨイヰ)などに、姉・まま母などやうの人々の、その物語・かの物語・光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。更科日記より


 どの街にも、ほの暗い場所は存在する。

私はこれまで6回の転居をしました。その度に、縁もゆかりもない土地への転居です。


新たな土地に行くと、1週間は朝から昼くらいまで、散歩をします。

街に馴染む前に早い時期に路地から路地をうろうろすることにしています。


住みなれてしまうと、当たり前になり、なかなか気がつかないものです。

朝、5時頃には家の付近から歩き始めて、公園や、公共施設などの位置を確認します。


銀行や市役所、病院、商店街。でも、これには、重要な課題が有ります。どこの街にも、必ず存在する曰くつきの場所。

歩くと感じます。理由がわかる時も、わからない時もあります。


たとえば、踏切、最寄り駅から二つ目の踏み切りには、白い花が備えられています。ただ、ぼんやりと、そこだけ霞がかかったように、はっきりとは見えないのです。なにか変だなあ。と、違和感があります。


この踏切は、事故が多発する踏切だと、後から次第に事情がわかります。白い花は実際には備えられていないのです。あの時はたしかに見えたのに。そして、その踏切を横断する道は、事故渋滞を起こすので、日常の中でも、出来るだけ迂回します。

 

家から通り3本くらいの所にある、三角公園。花壇の向こう側の立木の下も、靄がかかっているかのようにほの暗い。地域の広報にも、地域の噂話しにも、上がっていない。さて、この場所はなんだろうと、一応メモに書き込みます。


何回か気にしながら通っていると、5歳くらいの男の子の姿が見えました、悲しい顔をしています。。亡くなったんだなと思う。近所の子供か、ここで事故にあったのかはわからないのですが。


22歳の頃、都内の賑やかな街に引っ越した。下町情緒あふれる魅力的な街でした。

ここは、初日の朝の散歩で、道に迷いました。朝早いので、提灯に灯りが灯っています。石畳の路地に入り込んだことに気がつきました。料亭が並ぶ渋い造りの街並みと、石畳。


小さい池の辺りに出ました。池の周囲には柳の木が植えてあります。なんだか、ぞっとしました。空気が違うのです。

木の下はほの暗い。目を凝らすと、手縫いを被った和服の女性が立っています。この世の者じゃない。すぐに身を翻し、その場を後にしました。


それきり、道に迷い、3時間も彷徨い歩き、気がついたのです。昔からある建物か、大きな道路、橋、どこか近くにないだろうか。と、有名な橋があったことを思い出しました。迷い道から抜け出す方法です。


橋の場所をイメージしながら、路地をたどると、木の太鼓橋に出ました。賑やかな街をイメージしながら橋を渡ると、知った街に出ました。由緒ある古い街。この街には迷い道が多数存在するようです。よそから来た人はよく迷うに違いない。


東京都内の街は、明暦の大火や、過去に何回も大きな火事にあい、関東大震災があり、空襲で焼かれた歴史があります。賑やかな街でも、朝晩のぼんやりした時間帯や、靄に包まれる時には、迷い道が出現するのです。


いや、この記事を書いている今、TVの散歩番組に、その街が出ている。新旧が混在する美しい街です。今でもぞっとする。余所者には住みにくい街でした。神社でも人だか、なんだかわからないものに遭遇します。住所の表示はなぜかこのあたりだけ旧番地です。知らない影に手招きされたりします。


私はすっかりくたびれて、三か月で引っ越しました。

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