結
第45話 聞かされた真相①
九月。
残暑の厳しい日が続いていた。
新学期の始まった学校で、僕は相変わらず自分の席から外を眺めている。
夏休みに入る前と同じくクラスメイトたちが僕に話しかけてくる事はない。
ただ、夏休み前とは変わってしまったことが沢山あった。
一番の変化は、僕の幼馴染たちが死んだ事。
あの日、僕は神社で恵里香を見つけた後、その場で意識を失ってしまった。
次に目が覚めた時、僕はどこかの病室にいて、隣には恵里香が驚いたような表情で座っていた。
驚愕していた恵里香はすぐに泣きそうに顔を歪めて、勢いよく抱き着いてきた。
あの時は気を失う直前の記憶がフラッシュバックしてきて、思わず恵里香を突き飛ばしそうになったけれど、縋りついて泣きじゃくる恵里香はどう見ても本物だった。
僕も恵里香を抱きしめた。
恵里香の涙が冷たくて、そのおかげで僕たち二人が生きている事を実感することができた。
僕たちは抱き合ったまましばらく二人で泣き続けた。
映画とかならこれでエンディングが流れるところだろう。
けれどそこで終わらないのが現実というもので、僕にはその後も大変な事が次々と降りかかってきた。
まずはガマズミ様がまたやってくるかもしれないと言う不安。
それについては先に目覚めていた恵里香から、僕が眠ってしまっていた何日もの間、何もなかった事を教えてくれてひとまずは安心した。
恵里香の話しによると、僕たちは二人そろって恵里香の家の前で倒れていたらしい。
自分が何日も眠っていた事には驚いたし、僕が最後に意識を失ったのは神社だったはずで、どうして恵里香の家の前で発見されたのかわけが分からなかった。
けれどそんな僕の混乱が収まる前に、次の案件がやってきた。
目覚めたことを知った医者や、父さん、さらには警官との話もあって、感傷に浸る暇もなかったのだ。
いろいろと検査を受けたり、心配する父さんへの言い訳だったり、大変な事ばかりだったけれど、そんな中でも警官との会話が一番僕の心を疲弊させた。
病室にやってきた警官は、翔也の事件があった時に学校で見たスーツの男だった。確か名前は小田巻。警部補という階級が不相応に思える傲慢な男。
だが小田巻は以前見た時と少し印象が変わっていた。
目の下に隠しようもないほど深いクマを作り、覇気の無さそうな表情をしていて可哀そうなくらい人相が変わっていた。
事件の捜査でよほど忙しかったのかもしれない。
以前話した時のような傲慢な態度は鳴りを潜めていて、口調も少し丁寧なものに変わっていた。
だから小田巻本人からストレスを感じることはなかったのだけれど、問題だったのは何よりも会話の内容だった。
まず僕は小田巻から、神奈と一真が死亡した事実を聞かされることになった。
最後に見た恵里香の偽物のように、どこかでまだあれが夢か幻覚だったと思いたかった僕は、小田巻の話しを聞いて改めてあれが事実であり、二人がもういない事を実感させられた。
胸に大きく穴が開いたような喪失感を味わい、それと同時に不安が鎌首をもたげて来る。
二人が死んでいた現場に僕はいたのだ。何かしら事情を聞かれるのは当然で、悪ければ何かしらの疑いを向けられている可能性だってある。むしろだからこそ小田巻がやってきたのだろう。
僕は焦った。やましい事なんてないけれど、神様云々をどう伝えればいいのか見当もつかなかったからだ。
けれどそんなふうに身構えていた僕の予想に反して、あろうことか小田巻は二人が自殺したと言い切ったのだ。
その時は流石に話を止めざるをえなかった。
だってあり得ないからだ。
どうして二人が自殺だと断定しているのだろうか。
神奈は首を吊っていて、一真は飛び降りた。
確かにどちらも自殺の仕方としてあり得る事ではあるけれど、まさかその状況だけで判断してしまうほど警察が愚かだとは思いたくなかった。
流石に神様どうこうを信じてもらえるとは思えなかったけれど、そもそも二人に自殺する動機がないことくらい調べればすぐ分かるだろう。
だが、本当に驚くのはこれからだった。
小田巻の話しによると二人はしっかりと遺書も残していたらしい。
ある事で心を痛め、事前に自殺することを決めていたのだとか。そして僕と恵里香は二人の自殺に危うく巻き込まれそうになっただけ、それが小田巻が語った事件の真相だった。
一真と神奈の部屋からそれぞれの遺書を見つけ、しっかりとした現場検証も終わり、もう自殺は間違いはないと結論づけられているらしい。
僕の病室まで来たのは一応の状況確認のためだけだそうだ。
もはや脳の処理能力が追い付かなくなった僕は開いた口が塞がらなかった。
そんな僕に追い打ちをかけるように、小田巻は二人が自殺をした理由を口にした。
「二人の遺書にはね、どちらもキミを虐めていた事を悔いて自殺を決めたと記されていたよ」
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