第24話 崩れていく日常①
急に死んでしまった翔也。そして、三人を付け回す何者かの視線。
翔也の家を訪ねてから数日が経った今も、僕たちの日常を浸食してくる異変は収まる気配を見せていない。
あの日から三人が謎の視線を感じる頻度は日増しに増えていった。
一真は帰り道の途中で何十回と後ろを振り向くようになったし、恵里香も夜はまるで眠れなくなってしまったらしい。
神奈は授業中も時々身体震わせていて、怯えているその姿は痛々しくて可哀そうだった。
学校にいる時、家にいる時、道を歩いている時、どんな時でも関係なく、急にゾクッとする視線を感じて振り向いても、当然のようにそこには誰もいない。
神経の磨り減る日々が続いたせいで、三人は明らかに憔悴して弱弱しくなっていった。
いつも元気だった一真は、人が変わったように静かになって口数が極端に減った。
神奈は化粧をしても隠しきれないクマが目の下に出来てしまっている。
恵里香はなんとか気丈に振舞おうとしているけれど、無理をしているのが見え見えだった。
翔也が死んだ時はまさかこんな事になってしまうなんて想像もしていなかった。
数日前まで自分が虐められていたことが些細な事に思えてくる。
僕は今でも相変わらず無視をされたままだ。ただ今ではもう直接的な虐めはすっかりとなくなって、まるで皆が僕への興味を失ったかのように静かになっている。
嵐の前の静けさなのか、単純にストレス発散の道具として飽きられただけなのか。その理由は分からないし興味もない。今はもっと考えるべきことが他にあるのだ。
神様に連れて行かれる。
そんなオカルト話を全面的に信じたわけではないけれど、僕を虐めていた誰かがこの事態も引き起こしているとも考えられなくなってきた。
何か、常識では考えられないようなおかしな事が起きているのかもしれない。
三人の感じている悍ましい視線の他にも、そう思わせるような事がある。
一つは静かすぎる日常だ。
学校では警察もだいぶ少なくなり、僕が見ていないだけかもしれないけれどマスコミも来ていない。
もしかしたら知らない所で来ているのかもしれないけれど、この時代に学校で生徒が死んだというのに反応が少なすぎた。
スマホで軽く検索しても該当するようなニュースはないし、テレビも少しはチェックしても未だに翔也の件は見ていない。
自殺と断定していたくせにまだ捜査は終わっていないということなのだろうか。分からないことだらけで憶測も立てられない。
それに、学校の皆も本当にいつも通りに過ごしているのが不気味だった。
馬鹿な笑い話や勉強の相談など、教室で聞こえてくる会話はあまりにも凡庸なものばかりだ。
皆が普段通りに生活している今の日常は、そうあるために演技でもしているかのような歪さを感じてしまう。
もう一つは翔也の家族に未だに会えていないこと。
僕はあれから毎日翔也の家に通っていた。
初日は留守だったけれど、流石に毎日訪ねればそのうち会えると思っていたからだ。けれどその試みは今のところ全て無駄になっている。
長期の旅行にでも行っているかのように、いつ訪ねても誰もいないし、夜までまっていても誰も帰って来ない。
翔也の家族と連絡を取ろうにも、翔也本人と家の連絡先しか知らない僕にはただ待っていることしかできず、未だに翔也の家族とは会えていなかった。
流石におかしいと思う。けれど翔也が死んだことで忙しく家に帰って来れないのかもしれない。どっちにしろ家族が死んだ経験のない僕には分からないことだった。
そうこうしているうちにも、三人の幼馴染たちは弱っていった。
苦しんでいる三人のために何かがしたい。とは言っても、僕に出来る事なんてほとんどなかった。
できる事はなるべく三人の傍にいてあげることくらい。
あまりの役立たずさに情けなくなるけれど、それでも少しは役に立ちたくて僕は常に三人の傍にいることにしていた。
少し前まで虐められていた僕のために、いつも一緒にいてくれた幼馴染たち。
それがどれだけ心強かったことか、どれだけ嬉しかったか。
同級生からの虐めと得体の知れない恐怖、その恐ろしさは比べるような物ではないだろうけれど、今度は逆に僕が皆の傍にいてあげる番なのかもしれないと思ったのだ。
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