五人の幼馴染
美濃由乃
第1話 プロローグ
雨が降っていた。
こちらの様子を伺っているかのようなゆっくりとした雨足がやけに鬱陶しい。
空はどす黒い色の雲に覆われていて、本当はもっと盛大に雨を地上に落としたくて仕方ないように見える。
それでも先ほどから戸惑っているような、どこかはっきりとしない降り方をしているのが僕にはとても不自然に感じた。
だって本当に戸惑っているのは僕自身だからだ。
どうして僕が戸惑っているのかというと、目の前に広がっている光景が理解できないから。
別に雨が降っている事を不自然に思って戸惑っているわけじゃない。
七月になってもまだ梅雨が明けていないのは知っていたし、なんなら折りたたみ傘だって持って来ている。
だから僕が戸惑っているのはそんな事じゃない。
怠惰な雨が降る薄暗い光景。その中で明らかに異様な物体が落ちていた。
それは灰色の景色の中に鮮烈な色彩を放っている。配色のコントラストだけを見れば綺麗だとさえ思った。
初めそれを見た時、僕はまず自分の目を疑った。次に疑ったのは自分の頭だ。
それだけ自分が見た物が何かを理解するのに時間がかかった。
何とか理解できたのは、ひとえに長い時間をそれと共に過ごして来た積み重ねがあったからかもしれない。
とにかくそれは、こうなってしまう前の面影をあまり残してはいなかった。
それだけ僕の見知っている姿からは変わり果てたものになってしまっていた。
それは普段なら僕を見て笑ってくれたはずだ。
普段なら僕に駆け寄ってきてくれたはずだ。
それなのに今は、僕が目の前にいるのに何の反応もせずピクリとも動くことがない。
動はもはや静に変わってしまった後だった。
唯一動を残しているのは、雨によって流れて来る真紅だけ。
今自分の目の前にあるものがどういう状態にあるのかは、一目見ただけでも明かだった。
だからこそ僕は戸惑っていた。そして混乱していた。
理解はしたが、認めたくはなかったのだ。
僕が見つけたもの。
雨に濡れた地面に真紅をまき散らして落ちていたもの。
それは、僕の大切な、とても大切な――だった。
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